日本大百科全書(ニッポニカ) 「ティラデンテスの陰謀」の意味・わかりやすい解説
ティラデンテスの陰謀
てぃらでんてすのいんぼう
1789年にブラジルのミナス地方の中心地オウロ・プレトで摘発された、知識人グループの独立運動。「ミナスの陰謀」ともいう。11人の医師、詩人、商人、僧侶(そうりょ)、軍人などが関与し、ブラジル植民地の独立構想をなかば公然と論議していることを密告され逮捕された。首謀者の歯科医ティラデンテスTiradentes〔歯抜き屋の意、本名シルバ・シャビエルJoaquim José da Silva Xavier(1746―92)〕は、自ら同志の罪を引き受け、92年彼1人がリオ・デ・ジャネイロで断首、四肢切断され、郷里で晒首(さらしくび)にされた。彼の英雄的行為、処刑の残虐性、大げさな軍隊の動員などによって、かえって植民地住民に独立の可能性を印象づけた。事件の背景としては、ポルトガルのコインブラ大学への留学生がもたらしたアメリカ独立の情報の影響、18世紀後半のミナス地方の鉱業生産の低下と、固定税制による重税に対する不満などがあげられる。ブラジルの民族主義に合致する事件であるため、独立の先駆けとして過大評価されているとみる歴史家も多い。
[山田睦男]