曲芸(読み)キョクゲイ

デジタル大辞泉 「曲芸」の意味・読み・例文・類語

きょく‐げい【曲芸】

常人にはできない、身軽さや熟練を必要とする離れ業軽業かるわざアクロバット
[類語]芸当アクロバット軽業離れ業曲技サーカス軽業師

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精選版 日本国語大辞典 「曲芸」の意味・読み・例文・類語

きょく‐げい【曲芸】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 普通の人にはできない、目先の変わった離れわざ。かるわざ、手品、曲馬、こま回しなどの見世物の類をいう。また、その人。
    1. [初出の実例]「ただその一体(いってい)一体を得たらん曲芸は、又その分その分によりて」(出典:拾玉得花(1428))
    2. [その他の文献]〔李商隠‐詠懐寄秘閣旧寮詩〕
  3. ( 比喩的に ) ふつうでは考えられないような言動をとること。また、その言動。芸当。
    1. [初出の実例]「最もいやなのは、社の新幹部たちが、〈略〉外国電報の入る度に、態度を変えるといったような、曲芸を演ずることである」(出典:自由学校(1950)〈獅子文六〉自由を求めて)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「曲芸」の意味・わかりやすい解説

曲芸
きょくげい

大道芸あるいは見せ物興行として演じられる、おもに練達した高い技術をもって人の目を驚かせる芸能。「つまさきで歩く」というギリシア語に語源をもつアクロバットacrobatに代表されるように、西欧でも曲芸の類は非常に古くから行われているが、本項では日本の曲芸に限定して叙述するので、外国のそれについては「大道芸」などの項を参照されたい。

 日本の曲芸は、宗教的な呪術(じゅじゅつ)としての山伏の火渡り、太刀(たち)渡り、湯立(ゆだて)といった技術から発生した系統に加え、奈良時代に大陸から伝来した散楽(さんがく)系の諸芸、一足(いっそく)、高足(たかあし)、輪鼓(りゅうご)、独楽(こま)、呪師(じゅし)、侏儒(しゅじゅ)、傀儡(かいらい)、戯縄(ぎじょう)、縁竿(えんかん)、品玉(しなだま)、擲剣(てきけん)などといった芸能のすべてがその源流となったといってよいであろう。これらが散楽戸の廃止(782)以来、散楽法師から田楽(でんがく)法師、傀儡師に伝えられ、猿楽(さるがく)、中世の放下師(ほうかし)の手を経て、江戸時代には大道芸、見せ物芸として人気を集め、多くの芸種を生むに至り、いわゆる近世雑芸(ざつげい)群の主流を占めた。

 曲芸を大きく分けると、(1)人間の肉体(おもに手足)を用いてその修練の成果たる技術をみせるもの、(2)道具や品物を扱う技術をもって芸をなすもの、(3)動物を使うもの、に分類できる。肉体訓練を重ねて行われる曲芸を総称して「軽業」ともいう。軽業は蜘舞(くもまい)という散楽芸からおこった綱渡りが源流で、のちに一本綱、一本竹、二本竹など「渡り物」ともいえる一ジャンルを形成した。ほかに、籠(かご)抜け、蓮飛(れんとび)、刃渡り、人馬(ひとうま)、ぶらんこ、足芸などといった芸が数えられる。

 次に器物を用いる曲芸のいくつかについてその内容を記してみよう。

[織田紘二]

曲独楽

散楽雑伎(ざつぎ)中の一種であった独楽(こま)の曲芸が見世物興行として行われるのは、1700年(元禄13)九州から大坂に上った初太郎の博多曲独楽(はかたきょくごま)であった。彼の弟子の金之助らは江戸に出て男色と曲独楽で名を売った。明和(めいわ)~天明(てんめい)(1764~1789)のころに博多永蔵によって大成され、弘化(こうか)(1844~1848)の竹沢藤治によって一時代を画し、江戸末期を全盛期とする。売薬売りの松井源水は代々が独楽の芸をもって業を営んだが、1866年(慶応2)には13代目が渡米し、西洋にも曲独楽を紹介した。

[織田紘二]

曲搗き

粟餅(あわもち)の曲搗(きょくづ)きは寛政(かんせい)年間(1789~1801)に始まった。搗き手と捏(こ)ね手の2人が杵(きね)を空中に放り投げたり、餅をちぎったり丸めたりして投げる技をみせ、滑稽(こっけい)な口上や振りの大仰(おおぎょう)さで売ったものであり、文政(ぶんせい)・天保(てんぽう)(1818~1844)ごろに大坂、名古屋などで見世物になっている。

[織田紘二]

曲吹き

飴細工(あめざいく)のことで、水飴をいろいろな形につくりあげる妙技を曲にのせて見せるもの。寛政(かんせい)年間(1789~1801)には見せ物になっている。

[織田紘二]

曲鞠

散楽雑伎の一つとして中国から伝わったもので、美しい糸巻の鞠(まり)を蹴(け)って行う芸。寛永(かんえい)・正保(しょうほう)(1624~1648)ごろ、外良右近(うこん)という者が興行した記録が『卜養(ぼくよう)狂歌集』にあるが、蹴鞠(けまり)の本家飛鳥井(あすかい)家から訴えられている。天保(1830~1844)の菊川国丸が曲手鞠と名をつけて、乱杭(らんぐい)渡り、中吊(づ)り、文字書きなど19通りの演目を演じて高い評判をとったが、やはり召し捕らえられている。

 この種にはほかに、曲馬、居合抜き、皿回しなどがある。

 動物を用いての曲芸も多い。寛政ごろには鷹遣(たかつか)いが見せ物化しているし、海驢(あしか)の曲芸や大蝙蝠(こうもり)の綱渡り、九官鳥物真似(ものまね)などがあった。現在でも一部でみられる山雀(やまがら)の曲芸は文化(ぶんか)・文政(1804~1830)ごろからのもので、賽銭(さいせん)拾い、那須与市(なすのよいち)扇の的(まと)、宮島詣(もう)でなどといった芸があったが、おみくじを引かせる芸は今日でもときどき目にすることがある。貞享(じょうきょう)(1684~1688)のころには江戸・湯島天神前に水右衛門なる者がおり、これら動物に芸を仕込む名人であったという。

 曲芸軽業師は、江戸では乞胸仁太夫(ごうむねにだゆう)、穢多頭(えたがしら)弾左衛門の配下に置かれていた身分の低い者たちとされていたが、それだけに修練を重ね、近代のサーカスにみるような高度に完成された芸の伝統をつくりあげたといえよう。

[織田紘二]

『朝倉無声著『見世物研究』(1928・春陽堂)』『小野武雄編著『江戸風俗図誌8 見世物風俗図誌』(1977・展望社)』


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改訂新版 世界大百科事典 「曲芸」の意味・わかりやすい解説

曲芸 (きょくげい)

見世物の一種。〈曲〉には変化のあるおもしろ味とか,わざの変化といった意味があり,手や足を用いて主にその敏しょうな動きを見せる芸を称したが,のちには軽業と同義の言葉になった。奈良時代に散楽の一部として大陸から伝来した曲芸・軽業的技術が,中世にいたって放下(ほうか)師(僧)によって専門的に演じられる芸となる。その種目は長さ30cm内外,太さ1cmくらいの竹の棒2本を持って打ち合わせたり曲取りをする〈筑子(こきりこ)〉や平安時代から盛んに行われていた曲芸で,鼓の胴の形をして中央のくびれた部分に紐を巻き,回転させたり,空中高く飛ばせて曲取りをしたりする〈輪鼓(りゆうご)〉,田楽芸の高足(たかあし)から転化した〈連飛(れんとび)〉とか〈曲鞠(きよくまり)〉〈品玉(しなだま)〉などがあり〈放下〉はこれらの総称ともなった。近世の見世物,大道芸に受け継がれて種目もふえる。〈綱渡り〉〈乱杭渡り〉〈剣の刃渡り〉,薄い紙の上を渡る〈紙渡り〉,開いた蛇の目傘の上を渡る〈傘渡り〉,60cmあまりの間隔で立ててある障子の上をかけ渡り次々と後ろの障子を蹴倒していく〈障子渡り〉など,〈渡る〉という芸一つにも多くの種類があった。幕末の1850年代がこの芸能の全盛期で,〈曲乗り〉〈力持(ちからもち)〉〈曲持(きよくもち)〉〈曲独楽(きよくごま)〉などの離れわざは見物人を驚かせた。〈曲乗り〉では〈玉乗り〉が有名で,東京では関東大震災前まで江川玉乗一座が浅草で興行していた。〈力持〉は,100貫目(375kg)以上もある大石を持ち上げたり,その石でろうそくの火をあおいで消したりしたといい,女太夫の力持ちも出現した。〈曲持〉は,あおむけに寝て足を上げ,その足の裏で石や俵,樽,たらい,ときには人間を乗せてくるくる回したり,高く蹴上げたりする芸で〈足芸〉とも呼ばれる。〈曲独楽〉のように現在に多少は残った芸もあるが,そのほとんどが消滅した。
執筆者:

ヨーロッパにおいても,曲芸は古くからおこなわれていた。曲芸,軽業を意味するアクロバットacrobatはギリシア語のアクロスakros(先端)とバトスbatos(行く)からきた言葉で,つまさきで歩くことを意味し,初めは〈綱渡り〉のことをいっていた。ギリシアには綱渡りを教える学校が設けられ,ホメロスの詩も曲芸師に言及している。曲芸師の絵はポンペイのモザイク画やエジプトのフレスコ画にも見いだすことができる。中世になると旅芸人や吟遊詩人が曲芸を演じて人気をあつめ,曲芸風のダンスはふつうのダンスにとってかわるほど流行し,軽業をあらわす〈タンブルtumble〉という言葉は〈舞踊〉の意味にも使われるにいたった。この曲芸風のダンスは美しいというよりグロテスクで刀身の上でとんぼがえりをしたり,片足で踊ったり,綱の上で踊ったり,竿(さお)や刀の上でバランスをとる芸をおこなった。またコントーショニスト(骨なし曲芸師)は首に足をまきつけたり,足の間をとおした手で竿にぶらさがったりする芸当をみせ,これら旅芸人がすたれたのちまで,曲芸はなお人気をたもち,フェアfair(定期市)の余興に巡業して演じられ,のちには劇場に出演するようにもなった。19世紀になると曲芸師はミュージック・ホールやパントマイムに出演して人気を得,そこでアクロバティック・ダンスを見せ,喜劇のなかでなぐられたり,投げられたりする役を演じた。しかし曲芸の主要舞台はなんといっても19世紀初めころから出現したサーカスであった。サーカスにおいては曲馬,すなわち〈馬の曲乗りvoltige〉と〈馬の芸当liberty horse〉,軽業,手品,道化,ライオン・イヌ・サル・クマ・ゾウなどの〈動物の曲芸〉など各種の曲芸的要素が総合されている。
サーカス →雑技 →見世物
執筆者:

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百科事典マイペディア 「曲芸」の意味・わかりやすい解説

曲芸【きょくげい】

熟練した技術で人目を驚かす芸。日本では奈良時代に中国から伝わった散楽から発達。江戸末期からは寄席興行(寄席)として行われた。今日では軽業アクロバット奇術,馬や猛獣などの動物曲芸なども含めることが多い。→サーカス
→関連項目コメディア・デラルテ雑芸ボードビル水芸

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「曲芸」の意味・わかりやすい解説

曲芸
きょくげい
acrobatics

高度の熟練によって得られた肉体の柔軟性や敏捷性を応用して,人間の力学的行動性を見せる芸能。内容は,空中ぶらんこ,綱渡り,曲乗り,足芸,力技など多様。エジプト,インド,ギリシア,中国をはじめ,古代からさまざまな芸があり,日本でも,奈良時代に中国から渡来した散楽雑技のなかに,一足,高足 (たかあし) ,擲剣,品玉 (しなだま) などがあった。これらは散楽師から田楽師,猿楽師,傀儡 (かいらい) 師などの手に渡り,中世では放下 (ほうか) 師などによって演じられた。江戸時代は非人頭や香具師 (やし) たちの手によって,見世物芸,大道芸として盛んに演じられたが,明治以後西洋のサーカスや奇術に圧倒され,一部が寄席演芸に吸収されて残っている。そのほか曲馬,曲鞠,曲独楽,枕返し,太神楽 (だいかぐら) ,また動物や鳥の曲芸もある。ヨーロッパでは,中世には旅芸人による大道芸能として,17,18世紀には市 (いち) の娯楽として人気があったが,19世紀以後はサーカスの演目やミュージックホールの演芸に組込まれた。 (→軽業 , 曲馬 )  

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普及版 字通 「曲芸」の読み・字形・画数・意味

【曲芸】きよくげい

医卜などの技術。〔礼記、文王世子〕そ郊(郊学で士を試みる)に語るは、必ず賢を取り才を斂(をさ)む。或いはを以てめ、或いは事を以て擧げ、或いは言を以て揚ぐ。曲は皆之れを誓(つつし)ましめ、以て語るを待つ。

字通「曲」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

世界大百科事典(旧版)内の曲芸の言及

【大道芸】より

… また,近世に開花した種々の大道芸のもう一つの大きな源として,奈良時代に大陸から伝来した〈散楽(さんがく)〉をあげることができる。これは曲芸や幻術・奇術などを中心とする種々の戯芸であり,宮廷において正式の歌舞に対する俗楽として余興的に演じられていたが,782年(延暦1)の散楽戸の廃止以来急速に民間に流出し,民衆的な雑芸への道を歩み始める。 9世紀以降速度を早めた律令制の崩壊過程の中で,貴族や寺社の荘園に流れ込んだ雑戸民の中にもこれらのような多くの雑芸人が含まれていた。…

【見世物】より

…見世物は多く香具師(やし)の手で行われ,全国的に巡業するのを常とした。これらの種類を大別すると,(1)奇術(手品),軽業,曲芸,舞踊,武術などの技術や芸能を見せるもの,(2)畸人,珍禽獣(ちんきんじゆう),珍植物,異虫魚などを見せるもの,(3)からくり,生(いき)人形,籠細工(かございく),貝細工などの細工物を見せるものの3種となる。 まず京都の四条河原がその発祥地として,すでに慶長期(1596‐1615)ころには蜘舞,大女,孔雀(くじやく),熊などの見世物が,歌舞妓や人形浄瑠璃などにまじって小屋掛けで興行していた。…

※「曲芸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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