改訂新版 世界大百科事典 「ドキュメンタリー劇」の意味・わかりやすい解説
ドキュメンタリー劇 (ドキュメンタリーげき)
Dokumentartheater[ドイツ]
1920年代にドイツで発展した演出方法とそれによるドラマの総称。〈記録演劇〉ともいう。演出家ピスカートルがパケAlfons Paquet(1881-1944)の《旗》(1924),《津波》(1926)などの演出にあたって映写機などドキュメンタル機器を用いたのがはじまりで,事実性の強調に写真や映画が利用された。その後オーディオ・ビジュアル機器の開発,発展もともなってこの演出方法は,社会性を重んじる左翼的演劇以外にもひろまった。そのためこの名称自体はかえって忘れられたが,1960年代にあらためて脚光を浴びた。きっかけはピスカートルの演出によるホーホフートの《神の代理人》である。作品の内容が歴史的資料,証言などドキュメントによって事実性を裏づけられている点がこの場合の名称の由来である。キップハルトの《オッペンハイマー事件》(1964)やP.ワイスの《追究》(1965)などもこの系列にはいり,1960年代のこれらの作品は多くが日本でも上演されている。
執筆者:森川 俊夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報