日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピスカートル」の意味・わかりやすい解説
ピスカートル
ぴすかーとる
Erwin Piscator
(1893―1966)
ドイツの演出家。本名Fischer。12月17日ウルムに生まれる。俳優修行をするうち第一次世界大戦に召集され、復員後ベルリンに出て、アジプロ劇風のプロレタリア劇場を創始した。1924年から民衆劇場で活動を開始、大胆な古典改作や、映画や資料を多用した政治劇を上演、一方「赤いレビュー」の運動も並行して行ったが、27年に民衆劇場を追われ、ノレンドルフ広場のピスカートル舞台で活動を続けた。政治的、叙事的、技術的という三要素を総合した彼の政治演劇は、多くの協力者の共同作業で、劇場機構を駆使した斬新(ざんしん)な政治的作品『どっこい生きている』『ラスプーチン』『兵士シュベイクの冒険』を生み出した。ブレヒトもガスバラ、ラーニアなどとともに彼の活動に協力し、その影響を受けた。しかし経済的に破産し、戦線を縮小して活動を続けたが、31年に映画撮影のため当時のソ連に行き、そのまま亡命。36年にはアメリカに移り、おもに演劇教育に従事した。第二次世界大戦後、旧西ドイツに帰り、62年に自由民衆劇場の監督にカムバック、ホーホフート、キップハルト、ワイスなどの作品を演出し、60年代の政治的な記録演劇の機運を招いたが、活動なかばで66年6月9日急死した。演劇は彼にとって、つねに政治的な信条の表明の場であった。
[岩淵達治]