日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホーホフート」の意味・わかりやすい解説
ホーホフート
ほーほふーと
Rolf Hochhuth
(1931―2020)
ドイツの劇作家、小説家。エシュウェーゲ生まれ。1963年、ナチスのユダヤ人虐殺を黙視した当時のローマ教皇ピウス12世の戦争責任を告発する戯曲『神の代理人』(エルウィン・ピスカートル演出)によってセンセーショナルなデビューを飾る。同戯曲は25か国で上演され、1960年代に開花する記録演劇の先駆となった。以後政治演劇の旗手として、チャーチルの戦争責任を追及する『兵士たち』(1967)、アメリカの資本主義の機構を剔抉(てっけつ)する『ゲリラ』(1970)を発表した。その後も、ドイツの繁栄社会の背後に潜む貧困を描く喜劇『助産婦』(1972)、アリストファネスを下敷きにした喜劇『女の平和とNATO』(1974)など次々に問題作を発表。前者では田舎町の役人や政治家の偽善を暴き、後者ではNATO(北大西洋条約機構)の海軍基地建設に反対するギリシア人の農婦たちのセックス・ストライキを活写して好評を博した。『ある猟師の死』(1976)は、ヘミングウェイの猟銃自殺の直前を再現するモノドラマ。長編『ドイツの愛』(1978)では、ふたたび第二次世界大戦中の記録に基づいてポーランド人捕虜とドイツ人女性との許されぬ愛の破滅を描き、風化しかけた過去の罪過を鋭く問いかけた。その資料取材中に、現職の州首相の戦争犯罪を確認して辞職へと追い込み、その経緯を『法曹一家』(1980)にドラマ化した。その後の戯曲に、新薬開発をめぐる製薬企業と医師の不透明な癒着にメスを入れる『女医一家』(1980)、神話に仮託してアメリカの大統領暗殺に立ち上がる女性の悲劇『ユーディット』(1984)、『14年夏 死の舞踏』(1990)、『ワイマールの西野郎たち』(1993。西野郎とは旧西ドイツ人の蔑称)、『エフィの夜』(1998)のほか、小説には『アラン・トゥーリング』(1987)や『ユーリア』(1994)がある。
[丸山 匠]
『森川俊夫訳『神の代理人』(1964・白水社)』▽『森川俊夫訳『兵士たち――ジュネーヴ鎮魂歌』(1967・白水社)』▽『森川俊夫・越部暹訳『ゲリラ――五幕悲劇』(1971・白水社)』