改訂新版 世界大百科事典 「ニルバーナ原則」の意味・わかりやすい解説
ニルバーナ原則 (ニルバーナげんそく)
Nirvana principle
S.フロイトの多分に思弁的なメタ心理学的用語。仏教用語の涅槃(ねはん)(サンスクリットでニルバーナ)に由来するもので,〈涅槃原則〉ともいう。彼は《快楽原則の彼岸》(1920)において,ニルバーナ原則とは,刺激に基づく緊張をゼロにまで引き下げようとする心的装置の傾向(すなわち〈死の本能〉の表現)であり,快楽原則とは,その前段階の緊張をできるだけ低くかつ恒常的に維持しようとする傾向(すなわち〈生の本能〉の表現)であると説いた。しかしその後《マゾヒズムの経済的問題》(1924)においては若干の修正を行い,ニルバーナ原則は〈死の本能〉に帰属し,快楽原則は,ニルバーナ原則が〈生の本能〉の影響によってこうむったリビドーの要求とその修正であり,現実原則は外界の影響を代表すると再定義した。ニルバーナ原則はフロイト晩年の考えではあるが,ニューロンの興奮度をゼロにまで引き下げようとするのがニューロンの慣性の原理だとした若年時の発想にその萌芽を認めることができる。
→快楽原則
執筆者:下坂 幸三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報