精神分析の用語。〈快感原則〉ともいい,〈現実原則〉と並んで心的機能を支配する基本原則の一つ。S.フロイトの用語に〈恒常原則principle of constancy〉という概念がある。これは,人間の心的装置が,内在する興奮の量をできるかぎり低く,あるいは少なくとも恒常に保つように努めているという仮説である。フロイトの説く快楽原則は,この恒常原則からさらに導き出されたもので,人間の心的過程は,本来,緊張に基づく不快を回避し,空想または現実の満足によってその緊張を低下させることによって快を得ようとする,とされた。新生児は,この快楽原則または〈快・不快原則〉によってのみ支配されていると想像されるが,自我の発達につれて,現実原則が優位を占めるようになる。これは快楽原則に反対するものではなく,個体が外界の現実に適応しながら,無理なく不快な緊張を解消し得るように,その緊張解消を延期し,緊張解消による満足の可能性の一部を断念し,長い迂路をへて快感に達することを目ざすものである。したがって現実原則も詮ずるところ快楽原則の一修飾である。フロイトにいわせれば,現実原則が支配的な心の機能の型が確立していることが成人の健康人の条件であり,快楽原則の支配する型の遺残や再燃は神経症や精神病を意味する。このように,フロイトは快楽原則は自我の発達によって克服されるべき幼児的なものとみなしたのであって,フロイトを快楽主義者の系譜に属すると考えるのは,むしろ間違いである。
→現実原則
執筆者:下坂 幸三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…S.フロイトの用語。フロイトによれば,精神活動は,〈快楽原則〉と〈現実原則〉という二つの原則によって支配されている。前者は,本能欲求の高まりを現実の充足か幻覚的な充足によって低減させる活動であり,後者は,本能の満足を現実に適応するように馴致させていく過程である。…
…仏教用語の涅槃(ねはん)(サンスクリットでニルバーナ)に由来するもので,〈涅槃原則〉ともいう。彼は《快楽原則の彼岸》(1920)において,ニルバーナ原則とは,刺激に基づく緊張をゼロにまで引き下げようとする心的装置の傾向(すなわち〈死の本能〉の表現)であり,快楽原則とは,その前段階の緊張をできるだけ低くかつ恒常的に維持しようとする傾向(すなわち〈生の本能〉の表現)であると説いた。しかしその後《マゾヒズムの経済的問題》(1924)においては若干の修正を行い,ニルバーナ原則は〈死の本能〉に帰属し,快楽原則は,ニルバーナ原則が〈生の本能〉の影響によってこうむったリビドーの要求とその修正であり,現実原則は外界の影響を代表すると再定義した。…
※「快楽原則」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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