翻訳|neuron
神経細胞と同義である。神経元,神経単位ともいう。ニューロンは細胞体とその突起からなり,他のニューロンからの刺激,あるいは外界からの非神経性刺激を感受する能力と,他のニューロンあるいは非ニューロンに伝達されるような刺激を自身の内部で生成する能力とをあわせ備えている。ニューロンの細胞体soma(核周部perikaryonとも呼ばれる)は一般に大型であって,直径が30μm程度の球に匹敵する大きさを示すことが多い。さらに,直径100μmを超すような大型の細胞体も存在する一方で,直径わずか5μm程度の極端に小型な細胞体(小脳皮質の顆粒細胞など)もみられる。大型の細胞体の場合には,その細胞質中に含まれる核も大きく,ときにはそれが4倍性あるいは8倍性の染色体を有することがある。細胞体から出る突起(ただし,光学顕微鏡下で認めうる太さのもの)が多数存在すれば多極性ニューロン,2本のみであれば二極性(双極性)ニューロン,1本のみであれば単極性ニューロンと称する。ニューロンの突起のうち,細胞体に近づく向きに刺激を伝えるものを樹状突起dendriteといい,細胞体から遠ざかる向きに刺激を伝えるものを神経突起neuriteという。樹状突起はその名のごとく枝分れのはげしい樹状形を呈することが多いが,数mmから数十cmの長さにわたりほぼ一定の太さを保ち枝分れを示さぬ状態を呈することもある。後者のごとき,いわば電線状の樹状突起は末梢神経系における第一次知覚ニューロン(脊髄神経節内あるいは三叉(さんさ)神経中脳路核内にその細胞体が存在)についてのみ認められるものである。神経突起には電線状の形を呈するものが多いのであるが,しかし小脳皮質におけるゴルジⅡ型ニューロンあるいは青斑核に細胞体をもつニューロンのように,細胞体を離れるやいなや頻繁に分枝をくり返して,むしろ樹枝状の形態を示す神経突起の例も存在する。軸索axonは,ニューロンの突起のうちで,かなりの長さにわたり太さを変えないような,すなわち電線状の形を示すものに対して付けられた名である。以上のことから,軸索には刺激を細胞体より遠ざかる向きに伝えるものが多いが,反対の向きに刺激を伝えるもの(これを知覚性軸索sensory axonと呼ぶこともある)も存在することが明らかであろう。軸索とこれを囲む被膜,すなわち髄鞘あるいはシュワン鞘などを合わせたものを神経繊維という。
ニューロンはアセチルコリン,ノルアドレナリン,ドーパミン,γ-アミノ酪酸,グリシン,P物質,ソマトスタチン,エンケファリンなどの物質のうちの一つまたはそれ以上を生合成し,化学的伝達物質(神経伝達物質)として利用している。化学的伝達が行われる場であるシナプス部位では,一つのニューロンの神経突起が前シナプス要素となり,他のニューロンの樹状突起が後シナプスとなって,前者から後者に向かう伝達が行われることが多い。しかし,ニューロンにおける神経突起起始部(軸索初節部とも呼ばれ,つねに後シナプス要素となる)とランビエール絞輪軸索部分(つねに前シナプス要素となる)以外は,ニューロンのいかなる部分も前シナプス要素と後シナプス要素のいずれにもなりうることが知られている。
ニューロンは高度な分化をとげた細胞で,分裂能力はない。また,成熟個体では未分化な細胞(神経芽細胞)から新しいニューロンがつくられることもない。そのうえに,正常状態下で毎日1万~2万個ずつのニューロンが死滅しつづけると信じられている。このようなニューロンの大量死と記憶のメカニズムとの関連が注目され,無差別的なニューロン間の回路網が整理されることにより記憶が成立するのではないかとの考えが提出されている。外傷あるいは局所的血流阻害の影響がニューロン体に及べばニューロン全体が速やかに死滅する。しかし突起の先端に近い部位の傷害では,それより末梢側の突起部分のみが死滅し,これを補う形で新たな突起末梢部が再生する。
→神経系
執筆者:山内 昭雄
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神経細胞のことで、細胞体と多数の樹状突起、および1本の軸索(突起)とからなる。ノイロンNeuron(ドイツ語)ともよび、神経元、神経単位などとも訳される。ニューロンは神経系の形態的・機能的構成単位である。ヒトの神経系は、約1000億のニューロンによって構成されるといわれている。
[市岡正道]
外胚葉由来のマトリックス細胞が分裂してできる神経細胞のこと.種々の形態を有するが,一般には情報収集用の樹状突起,核やタンパク質合成装置のある細胞体,情報をほかのニューロンに伝える軸索部からなる.[CAS 96420-80-3]
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…一方,多細胞生物になるとしだいに細胞の役割分担がはっきりしてきて,幾種類かの細胞群の分業的かつ協調的な働きによって生体の機能がまっとうされるようになる。例えば,もっぱら情報の受容にかかわる細胞(感覚細胞)や,その情報に応じての生体の反応の発現に直接かかわる細胞(筋細胞や腺細胞)のほか,この両者の間にあって情報の伝達,処理,そしておそらくは貯蔵(記憶)にもかかわる細胞,すなわちニューロンneuron(神経細胞ともいう)が分化してくる。このようなニューロンの集合が神経系である。…
…そして12年には,外科医の手を借りて,下半身の激痛に悩む患者の両側前側索を切断して激痛を取り除くことに成功した。この手術が有効であったのは,侵害受容繊維に発生した興奮が脊髄の後根を経て脊髄の後角に細胞体をもつニューロンに伝わり,次いでこのニューロンから出る神経繊維に沿って脊髄内で交差した後,反対側の前側索を上行して脳に向かうためである。前側索を上行した興奮は,視床で中継されて大脳皮質の頭頂葉にある2次体性感覚野に到達する。…
…なお,〈視覚〉〈聴覚〉〈嗅覚〉〈味覚〉〈触覚〉などの感覚の詳細については,各項を参照されたい。(2)神経と脳 神経系の主役を演ずる細胞は,通常長く分岐をくりかえす複雑な突起をもつ神経細胞で,ニューロンとも呼ばれる。脳では,多数のニューロンが互いにシナプスという結合を行い,長くかつ込み入ったニューロンの連鎖をつくる。…
…すなわち,体性神経系が生体の外界への反応を媒介する性格を示す一方で,自律神経系は生体の内部環境を整えるものであるとの見方ができる。自律神経の遠心性要素は,節前ニューロンと節後ニューロンとの2者で構成される。
【交感神経系】
[遠心性要素]
交感神経系の節前ニューロンをなすものは,その細胞体が第1胸髄から第3腰髄までの髄節の高さにおける脊髄内に存在し,神経突起が脊髄神経の前根から白交通枝を経て交感神経幹に入り,幹神経節または椎前神経節内の交感神経系節後ニューロンの樹状突起または細胞体とシナプスを形成するような神経細胞である。…
…一方,多細胞生物になるとしだいに細胞の役割分担がはっきりしてきて,幾種類かの細胞群の分業的かつ協調的な働きによって生体の機能がまっとうされるようになる。例えば,もっぱら情報の受容にかかわる細胞(感覚細胞)や,その情報に応じての生体の反応の発現に直接かかわる細胞(筋細胞や腺細胞)のほか,この両者の間にあって情報の伝達,処理,そしておそらくは貯蔵(記憶)にもかかわる細胞,すなわちニューロンneuron(神経細胞ともいう)が分化してくる。このようなニューロンの集合が神経系である。…
…生物の脳の神経細胞(ニューロン)や神経回路網(ニューラルネットワーク)の情報処理様式に学んで,脳の高度な情報処理機能の人工的実現を目指す新しいタイプの情報処理手法の総称。ニューロコンピューティングとも呼ぶ。…
…中枢神経系はこれらの情報を処理し,一定の指令を末梢神経系を通じて効果器(筋肉や腺)に送り出して,外部環境に合目的的に適応するとともに,内部環境を恒常的に維持する機構に参加している。このように,中枢神経系は情報を送り込んでくる入力ニューロン(感覚神経節のニューロン)と,指令を直接末梢に送り出す出力ニューロン(運動ニューロンや自律神経の起始ニューロン)との間に介在するニューロンの集合とみることができる。入力ニューロンが出力ニューロンに直接連絡している場合は,反応の速度の点では有利であるが,情報に応じて反応を細かく調節することはできない。…
…バイオニクスでは,現在,モデルの構成に主眼がおかれていて,以下に述べるようないくつかのモデルが研究されている。
[神経細胞のモデル]
ニューロン,すなわち神経細胞は神経系での情報処理の基本要素で,情報を電気化学的なパルスとして伝えるための細長い繊維状の軸索が細胞本体から出ている。軸索の先端が他の神経細胞と接合する部分はシナプスと呼ばれる。…
※「ニューロン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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