知恵蔵 「ノマノミクス」の解説
ノマノミクス
フレンチやイタリアンとは異なり、デンマークには伝統的な国際的名物料理はもともと存在しなかった。そこで、レストラン「ノマ」の経営者の一人が北欧の食材や食文化を見直そうという社会運動を提唱した。それは、「ニュー・ノルディック・キュイジーヌ」(新しい北欧の料理)と呼ばれ、地域性を生かした自然にやさしい料理を、国民が力を合わせてつくり出し、北欧諸国全体に利益とメリットを生み出そうという内容。同レストランは、ミシュラン・ガイドに掲載されたり、英誌「レストラン」が選ぶ「サンペレグリノ世界のベストレストラン50」で連続して1位を獲得したりしたことで評判となった。料理を目当てに多数の観光客が欧州各国から訪れるようになって、波及効果により地元農家や食品加工業者など多くの人々が潤ったという。
デンマークは欧州北部に位置し、人口が550万人程度であることなどを理由に、東日本大震災で被害にあった東北地方と相通じるものがあるとの意見がある。これによれば、「そこに今あるもの」を大切にした観光資源再発見や地方再生が可能で、震災復興など地方経済の立て直しに活用できるという。他方で、デンマーク経済の活性化の中心にノマノミクスを据えることに疑問を呈する意見もある。そもそも、国家と地方を比較しても仕方がない、資源・エネルギーや社会制度など全く異なるものを、並べて考えても意味はないという冷ややかな見方もなされている。
(金谷俊秀 ライター / 2013年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報