改訂新版 世界大百科事典 「バフェイオ杯」の意味・わかりやすい解説
バフェイオ杯 (バフェイオはい)
Vapheio cup
ギリシアのスパルタ南方にある同名の丘のトロスから発見された1対の黄金杯。ともにコップ形で,やや下細りになる垂直な側面をもち,平板な把手が口縁部に水平につく。口径はともに10.8cmだが,高さは7.9cmと8.4cmと小差がある。器体の側面全面にわたるみごとな打出し手法の浮彫によって有名である。図柄はともに牛の捕獲を描いたものである。一つの杯は網で野生の牛を捕らえる場面で,網にかかった1頭,捕獲者を角にかけて逃げ出す1頭,走り去る1頭を描く。もう一つの杯はおとり牛による野生牛の捕獲の情景で,おとりに近寄ってきた1頭と捕らえられて綱をかけられている1頭を描く。この情景は既に捕らえた牛の馴化であるともいえる。いずれにせよ動と静とをみごとに対比させ,動物も人間も活気と生気にあふれたみごとな写実を示す名品である。出土地はミュケナイ文明時代の墓であるが,ミノス文明の金工の傑作とされ,前1500年ころの作である。
執筆者:村田 数之亮
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報