デジタル大辞泉 「浮彫」の意味・読み・例文・類語
うき‐ぼり【浮(き)彫(り)】
2 あるものがはっきりと見えるようになること。「問題点が
[補説]書名別項。→浮彫
[類語]明瞭・明快・平明・簡明・明晰・明白・明明白白・端的・はっきり・くっきり・ありあり・まざまざ・
背景をなす面より彫刻が立体的に浮き出し,しかもその彫刻の奥行きが丸彫彫刻に比較して圧縮されているもの。レリーフreliefともいい,イタリア語rilievoに始まる彫刻の用語である。厳密には,単なる刻線によるもの,たとえばタッシリ・ナジェールの岩壁刻線画とは区別され,またギリシアの神殿の破風彫刻やゴシック大聖堂の彫像のように,完全な丸彫彫刻を背景壁面に固定したものとも区別される。彫刻の浮出しの程度,換言すれば奥行き空間の圧縮度に応じて,高浮彫altorilievo,半浮彫(中肉浮彫)mezzo rilievo,低浮彫(薄肉浮彫)basso rilievoに分類される。これらは,いずれも彫刻が背景面より突出するいわゆる〈陽刻〉に属するが,浮彫の特殊な例としては,逆に背景面より彫刻が沈む〈陰刻〉,あるいは〈沈み彫〉があり,円筒印章の場合などは完全な陰刻の例であり,古代エジプトで慣用された手法では,彫刻そのものは低浮彫の陽刻であるが,輪郭線の部分で彫り込まれて,ぜんたいが背景面より沈んでいる,いわゆる〈くり型浮彫〉がある。
浮彫は,旧石器時代以来,聖所,神殿,聖堂に施される作品をはじめとして,祭壇,記念碑,工芸品,家具,印章など,多様な用途をもち,材料としては,石,土,木,金属,貴石,スタッコなど,技法としては,彫込み,彫塑,木型などによる打出し,鋳造などの技術が用いられる。したがって,彫刻の一種の技法と考えることが可能であるが,その視覚的な効果なり技法の本質から見れば,絵画と彫刻の中間に位置するものといえよう。ルネサンス彫刻に新風をもたらしたドナテロが,フィレンツェのオルサンミケーレ教会の《聖ゲオルギウス》の台座のために彫った《竜を退治する聖ゲオルギウス》などがひとつの例である。ドナテロは,ここで,極端に奥行きを浅くし,いわゆる〈押しつぶされた浮彫rilievo stiacciato〉を行っているが,その浅さにもかかわらず,人物の丸味,群像の遠近関係がみごとに表現されている。つまり,絵画の遠近法と彫刻の凸凹の明暗とが巧妙に併用されている。
古代や中世ではこの種の遠近法は用いられていないが,独立した丸彫と異なり,浮彫は平面的に展開することが可能であり,その意味では,壁画と同様の効果をもち,とりわけ,その耐久性と明暗の効果の点で,モニュメンタルな建築装飾によく適合しえた。アッシリアの浮彫による壮大な叙事詩,エジプト神殿に刻まれた歴史や日常生活は,まさに石の絵巻物というべきであり,ギリシア神殿のフリーズやメトープの浮彫,あるいは中世キリスト教聖堂の扉口上部の半月形浮彫などのファサードは,石の聖書,石の神話となっている。前述のように絵画の遠近法の併用を試みたルネサンス期には,祭壇,説教壇,唱歌壇の浮彫,あるいはギベルティによるフィレンツェのサン・ジョバンニ洗礼堂の青銅扉など,あらゆる部門で浮彫の全盛期をなした。近代美術ではモニュメンタルな作品は減少しているが,しかし,ロダンの《地獄の門》のような例を見ることができる。また,20世紀に入ってからは,ダダ以降,キャンバス上に針金やその他の付加物を用いる試みがしばしばなされているが,これは浮彫の触知性への絵画の側からのアプローチと見ることができよう。
逆に最古の例としては,旧石器時代の洞窟壁画に,しばしば岩壁の凸凹を動物の形姿に利用した例があり,ル・ロック・ド・セール洞窟の動物浮彫の大群像は,そこからの発展である。つまり,自然の岩石や壁面の凸凹になんらかの形姿への類似を見いだし,さらにそれをより完全にしようとしたこと,そこに彫刻と絵画のもっとも重要な始源の存在したことを物語っている。
執筆者:中山 公男
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…したがって,鑑賞も,現実の光と影,触知性,運動性を媒介としてなされる。彫刻は,丸彫彫刻と浮彫,さらに近代のモビールmobileに大別される。このうち浮彫は,絵画の平面性に近い部分をもつが,その場合でも現実の明暗と作品の凹凸の関連が,鑑賞の媒介となる。…
…木を素材とした彫刻,浮彫。木材は,石材,テラコッタ,ブロンズ(青銅)などとともにもっとも一般的な彫刻用素材であり,木材の産出する地域では手に入れやすいため,丸彫彫刻のみならず,建築,家具などの装飾や工芸品の素材としても多用された。…
※「浮彫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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