日本大百科全書(ニッポニカ) 「パラティン詞華集」の意味・わかりやすい解説
パラティン詞華集
ぱらてぃんしかしゅう
Anthologia Palatina
紀元前7世紀から後10世紀までのエピグラム4000編余りを収めるギリシア詩の一大集成。西洋文学では最大のアンソロジーで、『ギリシア詞華集』Anthologia Graecaとも称される。成立は、前1世紀の詩人メレアグロスの編んだ詩選集『花冠』Stephanosにさかのぼる。10世紀初頭コンスタンティノス・ケファラースは、メレアグロスの『花冠』とそれ以後に編まれた2種の詩選集に新作を加えて15巻の詞華集を編纂(へんさん)した。この詞華集は、その古写本が1606年ハイデルベルクのプファルツ侯の書庫Bibliotheca Palatinaで発見されたことから『パラティン詞華集』とよばれるが、それまでは完全に忘れられていた。つまり14世紀にマクシモス・プラヌーデスが手を加えて編んだテキスト、むしろ改悪ともいうべきものが、ルネサンス期を通じて17世紀ころまで唯一の底本として珍重されていたからである。のちに『パラティン詞華集』全15巻に含まれない300編余りをプラヌーデスの詞華集から取り入れて第16巻とし、ここに初めて『ギリシア詞華集』とよばれる16巻本のアンソロジーが成立した。全巻に洗練された「遊び」の精神があふれ、ことに恋愛詩、風刺詩、碑銘詩に秀作が多い。
[伊藤照夫]
『呉茂一訳『ギリシア抒情詩選』(岩波文庫)』▽『『呉茂一訳詩集 花冠』(1973・紀伊國屋書店)』▽『沓掛良彦訳『牧神の葦笛――ギリシア詞華集抄』(1978・牧神社)』