改訂新版 世界大百科事典 「ギリシア詞華集」の意味・わかりやすい解説
ギリシア詞華集 (ギリシアしかしゅう)
Greek Anthologies
アントロギアanthologiaとは,古代ギリシア語で〈花を集めること〉を意味し,元来花摘みやミツバチの営みを表す言葉であったが,今日では優れた詩文を集めた詩集を表す(アンソロジー)。《ギリシア詞華集》として今日伝存するもっとも有名なものは《パラティナ詞華集》(980年ころ,コンスタンティノープルにおいて集成)と,《プラヌデス詞華集》(1299年,プラヌデスが集成)の二つである。両詩集は内容的にほぼ同一であるが後者のほうが388編多くの詩を収録している。前者は,キリスト教徒の歌,恋愛詩,奉納詩碑,墓碑詩,神学者グレゴリウスの詩,祝典・献詩,奨学詩,酒歌・そしり歌,少年愛の歌,諸種韻律詩,謎歌,数歌,神託詩,雑歌など,約5000首の主としてエレゲイア詩形(エレジー)の短詩を,長短不同の15巻に収録したもの。古くは前7世紀の詩人たち,新しくは集成当時の歌人や学者のものまで集められており,《プラヌデス詞華集》には,さらにその後の詩まで散見される。
《パラティナ詞華集》はビザンティン時代ににわかに成立したものではなく,実は前1世紀以来,数次にわたるエレゲイア詩集編纂の成果を踏まえていることが,内容分析から明らかとなっている。前70年ころのメレアグロスMeleagros編の《冠》,前40年ころのフィリッポスPhilipposが〈ヘリコンの花を摘み編んだ〉という,やはり同名の《冠》詩集,後6世紀中葉アガティアスAgathiasがコンスタンティノープルで集成した《環》と題するエピグラム集,そしてさらに9世紀コンスタンティノス・ケファラスKōnstantinos Kephalasによって再編集された大詞華集が生まれ,これが《パラティナ詞華集》の祖本となったのである。詞華集に収められた古典期,ヘレニズム期の大詩人たちのエピグラムは,ルネサンス期以降の西欧の詩人たちの範と仰がれ,甚大な影響を及ぼしている。
執筆者:久保 正彰
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報