改訂新版 世界大百科事典 「ヒメシダ」の意味・わかりやすい解説
ヒメシダ
marsh fern
Thelypteris palustris (Salisb.) Schott
あぜや,よく日の当たる湿った草原などに生える夏緑性のシダ植物ヒメシダ科の草本。根茎は長く横走し,先端に黄褐色で膜質の鱗片をつけるが,古い部分は裸出している。葉は直立し,胞子囊をつける葉が高くなる。葉柄は25cmに達し,有毛,基部に鱗片をつける。葉は2回羽状深裂,羽片は基部で広く,裂片は深く切れ込んで,間の凹部は幅が広い。裂片は全縁で,二叉(にさ)分枝する葉脈が辺縁に達する。胞子囊群は裂片の辺縁と中肋の中間に並び,成熟すると隣のものとくっつくことがある。包膜は円腎形で,毛が密に生じる。日本各地に生じ,世界中の温帯と暖帯に広く分布している。しかし,日本や北アメリカのものとヨーロッパのものは染色体の構造や胞子の形態に差のあることが知られており,世界中のものが単一の種かどうかはさらに研究を要する。ヒメシダ科の名のもとになっているがこの科のうちでは特殊化した種である。
ヒメシダ科は世界中の熱帯で多様化しており,約1000種が知られている。ホシダ,ミゾシダ,ゲジゲジシダなどのほか,葉面が3回羽状深裂のヒメワラビ,単葉で羽状深裂のアミシダをはじめ,ヤワラシダ,ハシゴシダなど雑草的なものも多い。
執筆者:岩槻 邦男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報