ビデオ信号(映像と音の信号)を記録するテープレコーダー。略してVTRともいう。「ビデオデッキ」とも俗称される。また、テープがカセットに収納されたタイプのもの(のちに述べるVHSなど)をビデオカセットレコーダー(略してVCR)ということがある。
[吉川昭吉郎]
最初のビデオテープレコーダーは、アメリカのアンペックス社が1956年に開発・発売した。この世界最初のビデオテープレコーダーはオープンリール方式で、2インチ(5.1ミリメートル)幅の磁気テープを用い、電子回路は真空管式、大型で価格は5万ドルという甚だ高価なものであった。当初は白黒画像の記録であったが、のちにカラー画像の記録が可能になり、電子回路は半導体化された。おもに大きな放送局などで業務用に使われた。1980年代になると、オープンリール方式ながら、1インチ幅の磁気テープを使い、ヘリカルスキャン(後述)を採用したものが開発され、小型軽量化された。
一方、扱いやすいカセット方式の開発も進められた。1969年(昭和44)に、ソニーが新しいビデオカセット方式を発表した。この方式をもとに内外各社によって統一規格が合意され、1971年にUマチックと名づけられたビデオカセットが商品化された。4分の3インチ幅のテープ、ヘリカルスキャンを採用して小型化を達成し、オープンリールにおけるテープ掛け換えの煩わしさを追放した。しかしまだ高価であったため、おもに業務用に使われた。
数年遅れて民生用ビデオカセットの実用化が追随する。1975年にソニーがベータマックス(β(ベータ)マックス、Betamax)方式のビデオカセットを発売し、続いて1976年に日本ビクター(現、JVCケンウッド)がVHS方式のビデオカセットを発売した。ベータマックスとVHSは、2分の1インチ幅テープを使うこと、ヘリカルスキャン方式を採用することなど、基本的には相似であるが、カセットのサイズ、ローディング方式などが違い、互換性はない。
なお、名称について触れると、ベータマックスの名称の由来は、アジマス記録(後述)によって、隣り合う記録トラックの間にガードバンドという未記録領域を設けずにテープの使用効率をあげた「ベタ記録」のベタと、最高を示唆するマックスの合成からきているといわれる。一方VHSは、最初は記録方式を表すVertical Helical Scan、のちにVideo Home Systemを詰めたものといわれる。
[吉川昭吉郎]
ローディングというのは、カセットを装置に挿入したとき、装置がテープをカセットから引き出して記録・再生のための回転ドラムに巻き付ける動作をいう。記録・再生のために欠かせない準備動作である。ベータマックスでは、先行して製品化したUマチックと同じUローディングという方式を採用したが、VHSは新開発のMローディングを採用した。録画・再生開始の時間はUローディングが早いが、製造面では構造が簡単なMローディングが有利であった。
[吉川昭吉郎]
発売時、ベータマックスは1時間、VHSは2時間であった。のちにそれぞれ長時間化が図られるが、発売時におけるベータマックスの1時間という記録時間が映画やテレビドラマの録画には不足という評価を受け、のちのベータ、VHS競争において不利な立場にたつ要因の一つとなった。
[吉川昭吉郎]
ベータマックス、VHSに共通の原理と構造を述べる。映像の信号は音の信号に比べて広い周波数帯域をもっているため、これを磁気テープに記録するためには、記録・再生ヘッドと磁気テープ間の相対速度を高くしなければならない。初期のビデオテープレコーダーでは固定ヘッドが使われたが、装置が大きくなること、よい画品質を得にくいことなどの点で、実用的でない。そのため、のちにヘリカルスキャンとよばれる方式が使われるようになり、これが主流になった。
ヘリカルスキャンというのは、磁気テープの走行方向に対して傾きをもって設けられた回転ドラム上に記録・再生ヘッドを取り付け、この回転ドラムを高速で回転させることにより、磁気テープ上に斜めに映像信号を記録する方式である。こうすると、磁気テープの走行速度をあげることなしに、磁気テープと記録・再生ヘッドの相対速度を高くすることができる。通常、回転ドラムには2個の記録兼再生ヘッドをドラムの中心に対して対称の位置に設け、磁気テープ上に映像トラックを交互に記録してゆく。この場合、1本の映像トラックが一つの画面(フレーム)に対応する。2個のヘッドは、磁気テープに対する記録の条件を変えるようにしてあり、隣接する記録トラックの間にガードバンドとよばれる未記録の帯を設けなくても、記録・再生される信号が混じり合うことがないようになっている。これはアジマス記録とよばれる方法で、磁気ヘッドのギャップを記録トラックの垂直方向に対してすこし傾け、この傾斜角度を二つの磁気ヘッドで記録トラックの垂直方向に対して互いに逆方向にすることにより、隣接記録トラック間の干渉をなくすものである。
標準では、音声トラックは、普通のオーディオ用のテープレコーダーと同じように、固定ヘッドを用いてテープの走行方向に設けられる。また、映像トラックと音声トラック以外に、いろいろな補助的動作を行わせるためのコントロールトラックが設けられている。
[吉川昭吉郎]
使用する磁気テープによる分類では、次の四つがある。
(1)1インチ(約25.4ミリメートル)幅のもの。主として業務用。
(2)4分の3インチ幅のもの。Uマチックが代表的で、これも主として業務用に使われる。
(3)2分の1インチ幅のもの。VHS方式とベータマックス方式。
(4)小型のもの。VHS-Cと8ミリビデオがある。VHS-Cは、テープそのものは2分の1インチ幅でVHSと変わらないが、カセットを小型にしたものである。8ミリビデオは、テープ幅を8ミリメートルとして、小型化を図ったものである。VHS-Cと8ミリビデオの双方とも据え置き型(ビデオデッキ型)もあるが、ビデオカメラとしての用途が多い。
[吉川昭吉郎]
開発当初のビデオカセットでは、音声の録音・再生はオーディオ用のテープレコーダーと同様に固定ヘッドによって行われていたが、オーディオ用に比べてテープの走行速度が遅いため、高い周波数までの録音が困難であった。これを改良する方法として、記録・再生ヘッドとテープの相対速度が高い映像トラックに、映像とともに音も記録する方式が考えられた。音は映像信号の余裕部分を利用して、周波数変調またはPCM(パルス符号変調)で記録される。この方法は固定ヘッド方式に比べてよい音質が得られるほか、ステレオ録音も容易である。ハイファイビデオの俗称が与えられ、のちの主流となった。
[吉川昭吉郎]
映像帯域の上限を広げ、映像の解像度と画質をあげた方式である。目標どおりの高解像度・高画質を得るには、S-VHSビデオテープレコーダーと専用のS-VHSテープを用いる必要がある。S-VHSテープの寸法は従来のVHSテープのそれと同じであるため、VHSビデオテープレコーダーにS-VHSテープを使うことも、逆にS-VHSレコーダーにVHSテープを使うこともできるが、基本的にはS-VHSレコーダーとS-VHSテープの組み合わせでないときの画質は従来のVHS並みである。その後、普通のVHSテープを使ってS-VHS録画ができるS-VHS-ETという機能を搭載したビデオテープレコーダーも商品化されている。
[吉川昭吉郎]
映像帯域をさらに広げて、ハイビジョン映像の高画質録画ができるようにした方式である。W-VHS専用のテープが必要である。W-VHSテープには普通のテレビ信号(NTSC)の録画もでき、この場合はS-VHS品質でハイビジョン信号のときの6倍の長時間録画ができる。
[吉川昭吉郎]
ほとんど同時期に開発・商品化された民生用ビデオカセットが二つの方式に分かれたことに対し、消費者側から一本化してほしいという要望が出るのは当然であった。工業規格を所管する通商産業省(現、経済産業省)からも業界に一本化を促す要望が出されたが、ベータ陣営とVHS陣営は互いに譲らず、市場での競争に入った。両者は国際電気標準会議(IEC)でも規格化され、二つの標準が認められるという異例の事態を生じた。このころ、VHS陣営には松下電器産業(現、パナソニック)が参入しており、ソニー、松下の争いと評された。熾烈な争いが10年ほど続いたが、時間の経過とともにVHS陣営が優勢となり、1984年ごろにはVHSの勝利が決定的となった。ベータ方式のビデオカセットは2002年(平成14)に生産を終了した。
ベータマックスは、性能的には優れた点が多く、支持する消費者も多かったが、VHSが競争に勝ち残ったのは、ベータシステム製造ほど高度の技術をもたなくても製造にかかわることができて製造ファミリーを増やすことが容易であったこと、録画時間が長くテレビドラマの録画等に受け入れられたこと、ビデオソフト(録画済みビデオテープ)はVHSで供給されることが多く、レンタルビデオ業界もVHSを支持したこと、などがあげられている。
VHSが優れていたのは、ハイファイビデオ、S-VHS、W-VHS、D-VHSと絶えず進化を遂げるなかで、基本を変えることがなかったため、進化しても互換性が保ち続けられたことである。
[吉川昭吉郎]
民生用デジタルビデオカセットは先に述べたD-VHSのほか、ビデオカメラ用のDVなどがあったが、出現時期がビデオテープレコーダーの末期近くという不幸もあって、広く普及することはなかった。
これに対して、放送局や映像制作などで使用する業務用デジタルビデオカセットは需要が多く、1982年ごろから1995年ごろにかけて多くの方式・機材が開発された。代表的なものに、D1からD10まで一連の名称がつけられたビデオカセットがある。テープ幅は2分の1または4分の3インチ、磁性体は酸化鉄系またはメタル系、圧縮は非使用または使用など、用途に応じてさまざまな規格が採用された。
その後、画像記録がP2などと称される半導体メモリーを用いる方式に移行して、現在業務ビデオカセットの出番は少なくなっている。
[吉川昭吉郎]
1996年、世界に先駆けて日本でDVDとDVDプレーヤーが発売された。記録媒体としてのDVDはVHSテープと比べた場合、使用者にとっては小型・軽量で扱いやすく安定・高画質、製造業者にとってはコストが低廉ですむ、などの利点があり、急速に普及していく。放送電波がデジタル化されると、番組コンテンツのほとんどがハイビジョンになり、またコピー制限信号が付加されて、これに対応したDVDやBD(ブルーレイディスク)でなければ録画ができない仕組みになった。
NTSC録画を基本とし、コピー制限に対応しにくいビデオテープレコーダーはもはや時代遅れのものとなり、ビデオテープレコーダーの製造はDVDレコーダーにVHSが併設されたものなど少数例を除き、単体としては2007年をもって終了した。ビデオテープレコーダーとビデオカセットの使命は終わりを告げたが、映像文化に残した貢献は長く記録にとどめられるべきものである。
[吉川昭吉郎]
VTRともいう。磁気テープを用いてテレビジョン信号(映像や音のプログラム)を記録する装置。放送用,一般業務用,家庭用などそれぞれの用途にあった機能,性能,価格のものが実用となっている。
磁気記録技術を用いているので,即時に記録,書替えができ,現像処理などが不要で記録直後の再生,繰返し再生,スロー再生・スチル再生・高速再生などの特殊効果,編集可能といった多くの特徴をもっており,放送局では番組制作に不可欠な装置となっている。
テレビ番組を視聴したいときに自由に見たいといった要求を満足させる装置およびビデオパッケージ用として家庭用の普及も著しい。また,ビデオカメラとの一体型も開発され,放送用としては報道取材に,家庭用としてはフィルムムービーカメラに替わるものとして活用されている。
装置は磁気記録技術を同様に用いている一般のオーディオテープレコーダーと比較して,映像信号の記録に関して次の諸点に大きな違いがある。(1)オーディオテープレコーダーは固定ヘッドで記録するが,ビデオテープレコーダーでは回転ヘッドが使用されている。(2)オーディオテープレコーダーは交流バイアス法による直接記録であるが,ビデオテープレコーダーは周波数変調した信号を記録する。(3)ビデオテープレコーダーではカラー信号を記録するための特殊な信号処理が採用されている。
以下,家庭用ビデオテープレコーダーを例にそのしくみの概要を示す。
家庭用ビデオテープレコーダーは映像信号を記録するための心臓部である直径約7cmくらいの回転ヘッドシリンダーを中心に,カセットからテープを装てんするための機構および電気回路がとり囲んだ構造となっている。回転ヘッドシリンダーは図1に示すように上下固定で中央部が回転可能なものと,上下2段で上部が回転するものと2種類あり,いずれもこの回転部にビデオヘッドがごくわずか(数十μm)頭を出して180度の位置に2個取り付けられている。
カセットから引き出されたビデオテープ(幅1/2インチ)はシリンダーに斜めに巻き付けられ(これをテープローディングという),オーディオテープレコーダーと同様にキャプスタンで毎秒1~4cmくらいで非常にゆっくりと送られる。これに対しビデオヘッドは毎秒30回転(テレビの毎秒フレーム数)の高速回転で駆動される。よってビデオテープ面は2個のビデオヘッドで斜めにちょうどねじを切るように交互に走査され,テープヘッドの相対速度毎秒6~7m程度の高速で映像信号が順次記録される。
再生時には,この記録トラック(幅20~60μmでビデオトラックという)上をビデオヘッドで正確になぞる必要があり,テープ送りとビデオヘッドの回転位置との関係がサーボ回路で調整される。この調整のための基準信号がテープの下側の縁に1mm以下の幅で記録される(これをコントロールトラックという)。基準信号として記録時のビデオヘッドの回転位置を示す信号がとり出される。2個のビデオヘッドで再生された信号はスイッチ回路で順次切り替えて連続した信号として取り出される。音声信号はふつうのオーディオテープレコーダーと同様に交流バイアス法により固定ヘッドで,テープ上端の縁に約1mmの幅に記録される。これをオーディオトラックといい,ステレオ用として2トラックある。また,映像信号の記録と同様に二つの回転ヘッドでビデオトラックと同じ場所に,ビデオトラックと重なるように音声信号を記録する方法が開発された。これをハイファイオーディオトラックという。
以上が家庭用ビデオテープレコーダーのしくみの基本で,テープ上の記録パターン(テープフォーマットともいう)は図2のようになっている。
ビデオテープレコーダーではテープの互換性(記録したビデオテープレコーダーでない装置で再生すること)が重要である。このためには,カセットの寸法・構造,テープフォーマットが規格化されている必要があり,家庭用ビデオテープレコーダーではβ(ベータ),VHSの2方式の規格のものが普及している。
テープフォーマットについては,これまでに示した記録トラックの寸法関係のほか,記録する信号の処理方式,周波数関係なども規定する必要がある。日本のテレビジョン標準方式では明るさを表す輝度信号とカラー信号とが合成されているが,家庭用ビデオテープレコーダーではこれをいったん分離し,輝度信号はFM変調する。カラー信号は元の3.58MHzから約700KHzの低周波信号に変換して,FM輝度信号に重畳して記録する。
家庭用ビデオテープレコーダーでは,安価に長時間記録を行うための高密度記録手法がいろいろと採用されている。この一つに記録トラックをつめてべた書きにする方法がある。べた書きにすると再生時に隣のトラックからの信号が混入して画面がきたなくなる。そこで,家庭用ビデオテープレコーダーでは隣のトラックからの影響が生じないようなくふうをいろいろと行っている。これには2個のビデオヘッドを互いに傾けたり,低周波に変換したカラー信号にさらに細工をしたりすることが行われている。さらに高画質化のための信号処理も種々採用されており,これらは,いずれもテープ互換の観点から規格化されている。
再生時には,記録時の信号処理と逆の変換を行って元のテレビ信号に復元されるが,再生信号はビデオヘッドの回転むら,テープ送りのむら,テープの振動などによって時間軸上での変動(オーディオテープレコーダーのワウフラッターに相当するものでジッターと称する)があるので,この対策も同時に行われる。
テープ互換には,テープのシリンダーへの装着方法も重要である。図3にテープローディング機構の概要を示した。
以上が,家庭用ビデオテープレコーダーの基本であるが,特殊再生のためのビデオヘッドを付加したり,ハイファイ録音を行うための特殊な記録方法・回転ヘッドの付加などを行って機能向上をはかっている機種もある。図4に家庭用ビデオテープレコーダーの構成図を示した。チューナーおよびコンバーターを内蔵し,テレビ受像機との接続を容易にしている点も特徴としてあげられる。
放送用ビデオテープレコーダーは家庭用ビデオテープレコーダーに比べて高再生画質・音質と高信頼性がとくに要求される。このため,テープヘッドの相対速度を速くし,記録トラック幅も広くしている。
放送局では長く1インチ幅のビデオテープを用いるCフォーマットと呼ばれるアナログビデオテープレコーダーが使用されていたが,現在では3/4インチあるいは1/2インチ幅のビデオテープをカセットに入れて用いるD1,D2,D3,D5フォーマット等と呼ばれるディジタルテープレコーダーが使用されている。
ディジタルビデオテープレコーダーは記録の映像信号と音声信号を量子化し,ディジタル信号に変換して回転ヘッドでテープに記録し,再生時に元の信号に戻す。ディジタル信号は適正な信号処理により記録・再生で信号劣下がまったく生じない特徴を有するので,ダビングを何度も繰り返す放送局用途には向いている。
執筆者:横山 克哉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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