NHK(日本放送協会)が開発した日本方式のHDTV(high definition television、高精細度テレビジョン)放送規格の商標名。国際的には正式名称HDTVが用いられるが、日本ではHDTVの愛称(ニックネーム)としてハイビジョンが広く使われている。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]
1964年(昭和39)、NHK放送技術研究所は当時の標準テレビジョン方式であったNTSC方式にかわる次世代の高精細度テレビジョン放送方式の研究を開始し、1972年に、国際無線通信諮問委員会(CCIR:Comité Consultatif International des Radiocommunications。現、国際電気通信連合無線通信部門ITU-R)に規格の提案を行った。新しい高精細度テレビジョン放送方式は「ハイビジョン」と名づけられ、この名称はNHKによって商標登録された。高精細度テレビジョン放送方式の一般名はHDTVで、ハイビジョンは特定の商標名である。しかし、ハイビジョンという用語は語感が親しみやすくわかりやすいため、HDTVの愛称として広く受け入れられ、市場では一般名に近い扱いを受けるようになった。ハイビジョンが命名されたとき、HDTV放送はアナログ方式であったが、HDTVがデジタル方式に移行したあとも、この呼び方はデジタルハイビジョンとして受け継がれている。
ハイビジョンの基本的な規格は、走査線数1125本、アスペクト比(画面の横縦比)16対9で、従来のNTSC方式の走査線数525本、アスペクト比4対3に比べてはるかにきめが細かく、画面は映画のそれに近い迫力あるものになっている。
ハイビジョン信号の帯域幅はきわめて広く、電気信号に変換された映像の帯域幅は30メガヘルツもある。一方、12ギガヘルツ帯の周波数で放送されるBS(衛星)放送で使える1チャンネル当りの帯域幅は27メガヘルツしかなく、しかもアナログハイビジョンで使われる周波数変調(FM:frequency modulation)方式では伝送可能な信号の帯域幅はさらにその3分の1の9メガヘルツとなってしまう。このため、なんらかの手段を使ってハイビジョン信号の帯域幅を圧縮する必要がある。そこで採用されたのが、MUSE(ミューズ)(Multiple Sub-Nyquist Sampling Encoding)とよばれる圧縮方式である。画像の圧縮はデジタル技術を利用して静止画、動画の圧縮を効率的に行うが、視覚の特性を考慮して圧縮は違和感なしに達成されている。音声の圧縮もデジタル技術を利用し、音質は多少劣るが3.1マルチチャンネル(前方左、中、右の3スピーカーチャンネル、後方1スピーカーチャンネル)サラウンドを可能とする最大4チャンネルのAモードと、高音質2チャンネルステレオのBモードが設定された。
アナログ方式のハイビジョン放送は1989年(平成1)にNHKが行った1日5時間の実験放送によって開始された。1991年にはハイビジョン推進協会を事業主として、世界初となる試験放送が開始された。試験放送はBS9チャンネルと一つのコールサイン(放送局の識別信号)がハイビジョン推進協会に割り当てられ、NHKおよび在京民放5局、日本衛星放送(現、WOWOW(ワウワウ))、朝日放送の計8局が共同利用する形で行われた。NHK以外は曜日ごとに担当する局が変わり、また朝日放送は高校野球の生中継のみを担当した。試験放送は1994年に実用化試験放送に昇格した。2000年(平成12)になって、NHK・民放あわせて7局(試験放送を行った、朝日放送以外の放送局)のBSデジタル放送が開始された。この時点で民放各局は独自のチャンネルと各自のコールサインでデジタル放送を開始し、一つのチャンネルを共同利用するアナログハイビジョン放送から撤退した。しかし、NHKは過渡期においてアナログハイビジョン受像機利用者が円滑にデジタルハイビジョンに移行できることを配慮して、デジタルハイビジョン放送開始後も同一番組をMUSE方式アナログ放送で並行して継続し、2007年9月までこのサービスは続けられた。
アナログハイビジョン放送を受信して視聴するためには、MUSEデコーダーまたはそれを搭載した受像機を用意する必要がある。これらの機材は甚だ高価で、放送チャンネルが一つしかない不便さも災いして、アナログハイビジョンの普及はあまりはかどらなかった。終了時点における受信機数は200万台弱といわれている。NHKでは、ハイビジョンとMUSE方式を世界統一規格とすることを望み欧米各国に働きかけを行ったが、実現には至らなかった。
ハイビジョン放送を受信して高品位で録画するビデオテープシステムは日本ビクター(現、JVCケンウッド)からW-VHSの名で発売された。W-VHSの録画方式はベースバンド方式(変調しないもとのままの信号を伝送する方式)とよばれるもので、MUSE方式ではない。また、高品位のビデオパッケージとして、MUSE方式を用いたハイビジョンレーザーディスクシステムが、パイオニアLDC(現、NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン)、ソニーミュージック、松下電器産業(現、パナソニック)などから発売された。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]
1982年、NHK放送技術研究所が将来のデジタル放送の理念として、映像・音声・文字・静止画像などの情報をデジタル信号で統合して一つの電波で放送することを提案し、ISDB(Integrated Services Digital Broadcasting、統合デジタル放送サービス)という名称のテレビジョン放送方式を発表した。1985年、ISDBはCCIRで検討課題として採択され、国際的な標準規格として承認されることになる。
2000年12月1日、日本ではNHKと在京民放各社が参加してISDB方式によるBSデジタル放送が開始された。2003年12月1日、東京、大阪および名古屋のNHK3局、民放16社によって地上デジタル放送が開始され、2006年12月1日、43県の県庁所在地および近接市町村でも地上デジタル放送が開始された。これに伴い、アナログ放送は逐次終了し、2011年7月のアナログ放送最終停波によって日本のテレビ放送はデジタル化された(完全停波は2012年3月)。
BSデジタル放送はISDB-S、地上デジタル放送はISDB-Tとよばれる方式で行われる。ISDBはデジタルハイビジョン放送を含むデジタルテレビジョン放送全体の総称で、たとえば走査線525本の従来方式なども含んでいる。ハイビジョンはISDBの一部であって、ISDBとデジタルハイビジョンを同義語とするのは誤りである。
デジタルハイビジョンにおいても、走査線数1125本、アスペクト比16対9という基本規格はアナログハイビジョンのそれと同一で、その他の仕様においてもアナログ、デジタルに共通するところが多いので、アナログ時代に製作されたハイビジョンコンテンツ(放送内容)は容易にデジタルハイビジョンに移行できる。NTSCコンテンツをハイビジョン画質にアップコンバート(データを高解像度化すること)して放送することも行われる。
デジタルハイビジョンの映像圧縮はMPEG(エムペグ)-2 Videoとよばれる方式で行われ、映像帯域は100分の1~200分の1に高能率圧縮される。音声圧縮はMPEG-2 Audio AAC(Advanced Audio Coding)とよばれる方式で行われ、音声利用は、2チャンネルステレオのほかに、5.1マルチチャンネル(前方左、中、右の3スピーカーチャンネル、後方左、右の2スピーカーチャンネルおよび低音補強のためのサブウーファースピーカーチャンネル)サラウンドが可能である。アナログハイビジョンの場合と違ってサラウンドモードでも音質低下はない。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]
ハイビジョンは有効水平解像度が650本以上あるテレビジョン放送および受像機をさすものの総称で、放送や受像機の事情によって実際にはいろいろな様式が使われる。
日本における放送および録画機器で使われる様式は、おもに次の2種類である。
(1)地上デジタル放送、およびHDV(High Definition Video、高解像度ビデオ)カメラで使われる、画素数1440×1080(横×縦。以下同様)の方式。
(2)BSデジタル放送およびブルーレイディスク(BD)で使われる、画素数1920×1080の方式。
受像機では、低解像度のものから数えて画素数1366×768の方式、1440×960の方式、1920×1080の方式などが使われる。初期の液晶パネルやプラズマディスプレー・パネルでは、製造技術やコストの制約から低解像度のものが多かったが、2010年代になると37型以上の大型テレビ受像機は画素数1920×1080の高解像度の機種が主流となり、現在ではBSデジタル放送の高品位画像を楽しむことができるようになっている。画素数1920×1080の高解像度ディスプレーを備えた受像機は市場でフルハイビジョン受像機とよばれるが、フルハイビジョンというのは業界用語で、規格名ではない。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]
デジタルハイビジョン放送の受信録画ができるようになったのは、1997年に日本ビクターがアメリカのCSデジタル放送の録画向けに開発し、翌年日本で発売したD-VHS(Data-VHS)ビデオテープシステムが初めである。同社が開発して家庭用ビデオテープの業界標準となったVHSビデオテープの発展型で、映像圧縮にMPEG-2方式を用い、デジタルハイビジョン信号を高品位で録画することができる。BDが登場するまで、ハイビジョン放送の高品位録画ができる唯一の記録媒体であった。最盛期には、自社製造、OEM(Original Equipment Manufacturing、相手先ブランド生産)供給を含めて7社がD-VHSレコーダーを発売した。しかしBDが登場すると、コスト、大きさ、メンテナンス、頭出しの容易さなど、多くの点でテープよりディスクのほうに優位性があったことから、主役の座はディスクに移り、2008年にはすべてのメーカーがD-VHSレコーダーの製造を終了した。
2003年4月、ソニーが世界に先駆けてBDレコーダーを発売。翌2004年7月に松下電器産業が、また同年12月にシャープが続いてBDレコーダーを発売し、以後BDレコーダーは急速に市場を拡大してゆく。BDは、映像圧縮にD-VHSと同じMPEG-2方式を用い、ハイビジョン信号を高画質で録画することができる。録画時間は1層25ギガバイトのディスクでBSデジタル放送番組なら130分、地上デジタル放送番組なら180分で、2層50ギガバイトのディスクならば、それぞれの倍になる。
2007年、MPEG-2方式のデジタル放送信号を圧縮効率の高いH.264/MPEG-4 AVC(Advanced Video Coding)方式で再圧縮する技術が開発され、ハイビジョン信号を少ないデータ量に変換することができるようになった。H.264/MPEG-4 AVC方式は、高度の圧縮を行ってデータ量を減らしても、画質の劣化が少ないという優れた特長をもつ。このH.264/MPEG-4 AVC方式を用いた録画規格として、AVCREC(エーブイシーレック)規格とHD Rec(エイチディーレック)規格の2種類が提案された。AVCREC規格はBDの規格を管理するBDA(ブルーレイディスクアソシエーションBlu-ray Disc Association)が提案したもので、2015年時点でパナソニック、三菱電機のBD・DVDレコーダーに搭載されている。一方、HD Rec規格はDVD規格を管理するDVDフォーラムが提案したもので、東芝のBD・DVDレコーダーに搭載されたが、東芝のBD・DVDレコーダーにも2010年発売のモデルからAVCRECが搭載され、2013年発売のモデルからはHD Rec非搭載となった。これによって、H.264/MPEG-4 AVC方式を用いた録画規格はAVCRECに一本化され、これが業界標準となっている。AVCREC規格とHD Rec規格の間に互換性はなく、AVCREC機材で録画したディスクをHD Rec機材で再生することはできず、その逆も同様である。AVCRECの圧縮率は、初めは2分の1~4分の1程度であったが、2015年時点では1.5分の1~15分の1の圧縮が可能となっており、圧縮率は用途によって選択できるようになっている。AVCREC圧縮によって、BDならば片面1層の25ギガバイトディスクで12時間程度のハイビジョン録画が可能となり、また安価なDVD-Rディスク(書き込み可能なDVDディスク。4.7ギガバイト)にハイビジョンの録画を行うことができるようになった。
シャープとソニーのBDレコーダーはAVCRECを搭載していない。これは両社がBDを推進する立場をとっているためといわれる。
デジタルハイビジョン放送の録画に際しては、著作権保護のため、コピーワンスまたはダビング10(テン)とよばれるコピー制限が課せられている。これらの詳細については、それぞれの項目を参照されたい。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]
NHK放送技術研究所は、1995年から現行のハイビジョンを超える超高精細映像システムの開発を開始し、2000年に走査線数4000本以上のシステムを提案して、スーパーハイビジョンの名で公表した。日本提案のスーパーハイビジョンは2012年にITU-Rで勧告されて国際規格になった。公式名は、Ultra High Definition Television(UHDTV)である。スーパーハイビジョンという名称は公式名ではなく、ハイビジョンの場合と同様に日本方式UHDTVの愛称である。
日本における超高精細映像システムの計画は、まず画素数4KウルトラHD(ultra high definition)システムを実用化し、ついで画素数8KウルトラHDをスーパーハイビジョンとして実用化することになっている。4K、8Kというのは、それぞれ現行のハイビジョンの解像度の4倍解像度、8倍解像度を意味する。
4KウルトラHDは、画素数3840×2160をもつシステムである。4KウルトラHDの映像圧縮はH.264/MPEG-4 AVC方式で行われる。2014年6月に124度および128度CSデジタル放送を使って試験放送(Channel 4K)を開始、2015年3月に、124度および128度CSデジタル放送の「スカパー!」の空きチャンネルを利用して4K映画(Ch.595)および4K総合(Ch.596)の放送を開始した(Channel 4Kは2016年3月末に放送終了)。2016年12月にはBSデジタル放送でBS-17(地上デジタル放送の難視聴対策として使われているチャンネルの放送終了後の空き周波数帯域を利用)で4K試験放送、2018年にはBS放送と110度CS放送(いずれも左旋円偏波。現在使われている右旋円偏波とは別方式)で本放送を開始することが計画されている。
UHDTVとして最終的に目ざしているのは8KウルトラHDスーパーハイビジョンで、画素数7680×4320をもつシステムである。8KウルトラHDスーパーハイビジョンの映像圧縮はH.265/MPEG-4 AVC(H.264の後継規格)という方式で行われ、映像信号は100分の1~200分の1に高能率圧縮される。現行のハイビジョンに比べて、動きの速い被写体のぼやけを低減したり、色の再現を忠実にしたりすることができ、2D(2次元)放送でも立体感が得られるという。3D(3次元)立体テレビジョン放送も検討されている。音声は22.2マルチチャンネル(上層に9スピーカー、中間層に10スピーカー、下層に3スピーカーの3層に配置される22スピーカーチャンネルと、低音補強のための2スピーカーチャンネル)サラウンドが計画されており、家庭用に、3.1チャンネルサラウンドや8.1チャンネルサラウンドを22.2サラウンドに変換するシステムも検討されている。
今後、2016年にBSデジタル放送で8K試験放送、2020年に本放送をそれぞれ開始するとされていたが、2014年8月の発表で本放送開始を2年前倒しして2018年とすることになった。いまのところ、地上波での4K、8K放送予定はない。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]
映像撮影は長い間化学的な原理によるフィルムを使って行われてきたが、1956年に業務用のVTR(ビデオテープレコーダー)が開発されて、撮影は電子的方法で行われるようになった。当初は撮影用のビデオカメラ部と記録用のレコーダー部が分離独立し、両者をケーブルでつなぐ方式であったが、両者が一体化されたカムコーダーが実用化されて、民生用にも利用可能になった。民生用のカムコーダーが開発されたのは1980年代初めで、録画媒体に磁気テープを使用するアナログ記録であった。2003年、日本のメーカー4社の合意で、ハイビジョン映像をデジタル記録するためのHDV(high definition video)規格がつくられた。HDV規格には映像圧縮にMPEG-2、音声圧縮にMPEG-1 Audio Layer-2とよばれる方式が用いられる。この方式によるデジタルハイビジョンカムコーダーが発売され、NTSC画質からハイビジョン画質への移行が進んだ。
2006年、AVCHD(advanced video codec high definition)規格がつくられた。この規格では映像圧縮にMPEG-2よりさらに圧縮効率のよいH.264/MPEG-4 AVC方式を採用している。この方式を用いたハイビジョン映像撮影用の製品が国内数社から発売されている。機材の形はスマート、大きさは小型化され、発売当初のカムコーダーとはイメージを一新したものとなっている。記録媒体には、HDD(ハードディスクドライブ)やメモリーカードなどが使われ、多様化している。
他方、一眼レフカメラ、ミラーレス一眼カメラ、スマートフォンなどの多くにハイビジョン映像撮影機能が付加され、本格的なカムコーダーを含めて利用者の選択肢は多様化してきている。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]
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