電気通信で用いられるパルス変調の一つ。音声などのアナログ信号の振幅値をいったん二進符号に変換した後,パルス振幅の変化(例えばパルスの有無など)により表現することをいう。英語の頭文字をとってPCMと略称される。基本的な考え方は1937年フランスのレーブA.H.Reevesによって発明されたが,実用に供されるようになったのは真空管の時代を経てトランジスターが普及し始めた1960年代初頭のことである。当初は電話音声への適用が中心であったが,技術の進歩とともにテレビ信号やディジタルオーディオ,PCM録音などの分野にも適用されつつある。電気的なパルスにアナログ情報をのせるには,パルスの振幅や時間幅,あるいは時間位置を変えるなどの方法があり,それぞれパルス振幅変調,パルス幅変調,パルス位置変調などと呼ばれる。これらの変調方法ではパルスの伝送過程で生ずる波形のひずみや途中で混入する妨害雑音がもとのアナログ信号に加わって出力される欠点があった。そこでくふうされたのがパルス符号変調である。パルス符号変調ではパルスの有無を受信側で正しく再現できればよく,波形ひずみや妨害雑音に強い高品質で高安定な通信システムが実現できる。
パルス符号変調の原理は〈標本化〉〈量子化〉および〈符号化〉の三つの基本機能により理解される。標本化とは時間的に連続なアナログ信号をとびとびの時間点のみで表現することである。標本化定理によれば,〈周波数帯域が1/(2T)以下に帯域制限されたアナログ信号を周期Tで標本化して得られる標本値の系列はもとのアナログ信号のすべての情報を保存しており,逆に標本値の系列に適当な補間を施すことによりもとのアナログ信号を完全に再現できる〉ことが示される。例えば図1の波形aに対し周期Tで標本化を行うと波形bのような標本値の系列を得る。この波形bを送信して,受信側では波形bからもとの波形aを再現することができる。量子化とは標本化によって得られた標本値を,あらかじめ定めた有限個の振幅レベルのうちもっとも近いレベルで近似することである。近似により生ずる誤差は量子化誤差,あるいは量子化雑音と呼ばれる。量子化誤差はパルス符号変調を用いるシステムにとって不可避な品質劣化要因となるが,量子化のレベル数をある程度以上多くとることにより品質劣化を抑えることができる。また量子化レベルの間隔が等しいものを直線量子化,等しくないものを非直線量子化と呼ぶ。音声などの信号では小さい振幅レベルでは間隔を細かくとり大きい振幅レベルでは粗くとる非直線量子化のほうが量子化の効率がよい。パルス符号変調ではパルスの有無(あるいは正負など)の組合せにより振幅情報を表現するため二進符号が用いられる。有限個の量子化レベルのおのおのに二進符号を対応させることを符号化と呼ぶ。二進符号の長さをnビット(1ビット=二進1桁)とすれば,表現できる量子化レベルの数は2n個となる。例えばn=3の場合,(000),(001),(010),(011),(100),(101),(110),(111)の23=8通りとなる。図1-cに符号化によって得られたパルス波形の例(n=5ビット)を示す。図において実線がパルスあり,破線がパルスなしに対応している。標本化周波数および符号化ビット数は情報の品質を確保する点からは少しでも高く,あるいは多くとるほうがよいが,パルス伝送の点からはできるだけ少なくすることが望まれる。表に電話音声や音楽,テレビ信号などの信号の種類に応じた標本化ならびに符号化の諸元を掲げた。またパルス符号変調を用いた通信系の概念的な構成を図2に示す。図の上側が送信側で下側が受信側であり,両者はパルス伝送路を通じて結ばれている。受信側の復号化ブロックは送信側の符号化ブロックと逆の機能をもち,伝送路を通じて連続的に到来するパルス列のnビットごとに量子化された振幅値を再現する。この場合どのnビットが1組であるかを判断するため〈同期情報〉が必要になるが,これは一般に同じパルス列中に挿入されて送信側から受信側に伝えられる。
→ディジタル伝送
執筆者:金子 尚志
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
パルス通信におけるパルス変調方式の一つ。電話などのアナログ信号をパルス符号に変換してデジタル伝送し、受信側ではまた元のアナログ信号に戻して通信を行う変調方式。略してPCMともいう。
具体的には、ある一定周期で信号の振幅値(標本値)を抽出し、これを整数の振幅値で近似(量子化)し、その振幅値を表わす整数を二進符号のパルス列に変換(符号化)して伝送する。受信側では二進符号で伝送されてきた信号を逆の操作で量子化レベルに変換(復号化)し、これを連続したアナログ信号に復元する。復元したアナログ信号は量子化により元のアナログ信号とは誤差があるが、二進符号の桁(けた)数(ビット数)を増すことによりこの誤差を十分小さく抑えることができる。
PCM方式は1937年イギリスのリーブスAlec Harley Reeves(1902―1971)によって発明された。アナログ信号を伝送する方式では伝送路の途中で生じる波形のひずみが避けられないが、PCMではパルスの有無さえ正確に再生されれば入力信号を近似(量子化)した誤差のみで、忠実な伝送が可能であり、伝送路での雑音の影響も受けにくいという長所がある。また、PCM方式で符号化された各回線ごとのパルス列(デジタル信号)を時間的にずらして並べることにより、一つの伝送路を用いて複数の回線の信号を伝送することも可能である。これを時分割多重(TDM)という。
[坪井 了・三木哲也]
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…スプレー塔は連続相の軸方向の混合が著しく,これが装置の性能を下げる効果があるので,その対策として周壁部に邪魔板を設けて多段型にするくふうが数多く提案されている。たとえば回転する翼や円板を用いて段内における2相の接触をよくしたもの(メキシコ塔,回転円板抽出塔など),スプレー塔を多孔板により多段化したもの(多孔板抽出塔),さらにこれに脈動を与えて,多孔板からの軽液の液滴の生成をスムーズに行い,かつ分散を均一にするように考案されたパルスコラムなどが開発されている。また,2相の分離に時間のかかる抽出系のためには,遠心力により分離速度を上昇させる遠心型抽出器も各種開発されている。…
※「パルス符号変調」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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