内科学 第10版 の解説
フェニルケトン尿症、高フェニルアラニン血症(先天性アミノ酸・尿素回路および有機酸代謝異常症)
定義・概念
フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(phenylalanine hydroxylase:PAH)の先天性異常により,高フェニルアラニン血症およびフェニルケトン尿症を示し,知能障害,痙攣,メラニン欠乏など引き起こす.常染色体劣性遺伝で,マススクリーニングで発見される頻度は1/80000で,アメリカ白人(1/8000)に比べると頻度は少ない.病態生理 PAH遺伝子座位は12q22-14で,現在までに200種以上の変異が同定されている.PAHはおもに肝臓で発現し,フェニルアラニンをチロシンに変換する酵素で,この反応には,補酵素としてテトラヒドロビオプテリンが必要である.このため,テトラヒドロビオプテリンの合成,または再還元にかかわる酵素の欠損でもフェニルアラニン血症が起こる. PAHの障害により,フェニルアラニンがチロシンとなって消費されないと,フェニルアラニンが蓄積し,代謝されてフェニル乳酸やフェニル酢酸,フェニルグルタミン酸となる.これらが血液脳関門の発達の悪い乳幼児期に蓄積すると,アミノ酸の細胞内へ輸送が阻害されるために,精神遅滞や痙攣をきたす.
鑑別診断
PAHの欠損による古典的なフェニルケトン尿症,PAH部分欠損による良性フェニルケトン尿症のほかに,補酵素のテトラビオプテリンの異常による悪性フェニルケトン尿症がある.フェニルアラニン誘導体を大量に含む尿となるので,ネズミの尿のような臭いを放つ.新生児マススクリーニングで血中フェニルアラニンが高値(2~20 mg/dL以上)となる.精密検査では尿中の有機酸分析で代謝産物であるフェニル酢酸などが高値となる.ビオプテリン代謝異常による悪性フェニルケトン尿症との鑑別にはBH4負荷テストを行う.ビオプテリン代謝異常症では,BH4を大量に与えたときに血中のフェニルアラニンが減少する.治療 フェニルアラニンの摂取制限を生涯続けることが基本となる.新生児期から食事中のフェニルアラニン含量を下げる(低フェニルアラニンミルク).乳児期以降では,治療用ミルクを基本にして,蛋白質の少ない野菜,果物,穀類を主とする献立とする.食事による制限により知能低下などの症状を完全に防ぐことができる.その後も終生,肉,卵などを避け穀類,野菜などと治療用食品などを組み合わせた食事による制限が必要である.最近では,低フェニルアラニンペプチドも開発されている.早期に治療を打ち切った場合には神経症状が出現する.テトラヒドロビオプテリン代謝障害による高フェニルアラニン血症では,低フェニルアラニンミルクは無効のため,テトラヒドロビオプテリンを治療に用いる. フェニルケトン尿症の母親が妊娠した場合,胎児が高濃度のフェニルアラニンにさらされることによって,遺伝的には正常であっても,胎児の自然流産,知能障害,奇形などを生じる(母性フェニルケトン尿症).このため,厳密な食事管理が重要である.[中屋 豊]
■文献
Behrman RE eds: Nelson Textbook of Pediatirics, 17th ed, pp. 397-398, 2396-2427, Elsevier, 2006.
Saheki T, Kobayashi K, et al: Reduced carbohydrate intake in citrin-deficient subjects. J Inherit Metab Dis, 31: 386-394, 2006.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報