フェニルケトン尿症(読み)ふぇにるけとんにょうしょう(英語表記)phenylketonuria

翻訳|phenylketonuria

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フェニルケトン尿症」の意味・わかりやすい解説

フェニルケトン尿症
ふぇにるけとんにょうしょう
phenylketonuria

知的障害を伴うアミノ酸の先天性代謝異常で、常染色体潜性遺伝によって生じ、血族結婚いとこ婚)により多発する。肝組織中のフェニルアラニン水酸化酵素ヒドロキシラーゼ)が先天的に欠損しているため、フェニルアラニンを非可逆的にヒドロキシル化してチロシンを生ずることができず、血中にフェニルアラニンが増量し、これがトランスアミナーゼによってフェニルピルビン酸となり、尿中に多量に排出される疾患で、フェニルピルビン酸が化学構造上フェニルケトンであるところから名づけられ、PKUと略称される。1934年に初めて報告され、報告者の名をとってフェーリング病Fölling's diseaseともよばれる。

 出生時には正常であるが、数か月後からしだいに精神発達遅滞をはじめ、チロシンからのメラニン形成が不全となるために赤毛(ときに金髪)や色白、淡い虹彩(こうさい)などが目だつ。とくに知能障害は1歳半くらいまで進行が急速で、乳児期には点頭てんかん、けいれん発作、行動異常、異常脳波などがみられることが多い。そのほか、フェニルピルビン酸から生じたフェニル酢酸によるカビ臭い体臭やネズミの尿のような尿臭をはじめ、湿疹(しっしん)や多汗などの身体症状も現れる。

 新生児期に少量の血液濾紙(ろし)で採取してガスリーGuthrieテストを行うマス・スクリーニングによって早期発見し、ただちにフェニルアラニン摂取を制限する食事療法(低フェニルアラニン治療食)を開始する。この治療食は日本でも3種(「低フェニルアラニンペプチド」「フェニルアラニン除去ミルク」「フェニルアラニン無添加総合アミノ酸」)が市販されており、少なくとも生後3か月以内に始める。なお、フェニルアラニンは必須(ひっす)アミノ酸であるから、過度に制限すれば欠乏による栄養障害をおこす。また、この治療食は脳の発育の速やかな乳幼児期ほど重要で、中枢神経障害の発生予防上、脳の発育が完成する(10~12歳)まで続けたのちに中止する。

 PKUで食事療法を行ったことのある母親は患者ではないが保因者であるわけで、すでに治療食中止後に血中のフェニルアラニン値はかなり上昇しており、そのまま妊娠すると胎児がその血液で灌流(かんりゅう)され、脳障害や形態異常などをもって生まれることがあるので、受胎前からふたたび治療食を開始し、血中フェニルアラニンを低下させておく必要があり妊娠期間中も続けるようにする。

[山口規容子]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フェニルケトン尿症」の意味・わかりやすい解説

フェニルケトン尿症
フェニルケトンにょうしょう
phenylketonuria

先天性アミノ酸代謝異常症の一つで,常染色体性劣性遺伝により生じる。フェニルアラニン水酸化酵素の欠損が原因で,乳児期の早期から精神および身体発育の遅延,けいれん,赤い毛髪,湿疹などの症状が現れる。いったん脳細胞が侵されると治療効果があがらなくなるので,早期に発見し,少くとも生後3ヵ月以内に治療を開始すれば発症を予防できる。この病気は尿の検査紙によるスクリーニングで容易に発見でき,治療には低フェニルアラニン食餌療法が有効である。

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