食卓に出すべき料理の種類や順序。またそれを記した品書(しながき)(献立書(こんだてがき)、献立表)をいう。献立の語は室町時代から用いられ、供応の酒宴に各種の料理を組み合わせることもこのころ武家によって始められた。「献」は酒肴(しゅこう)を客に勧める意で、一肴につき酒3杯を飲ませて膳(ぜん)を下げる(これを一献という)作法も当時すでに行われていた。したがって、本来、献立とは本膳(ほんぜん)の内容ではなく、酒宴の一献、二献という肴(さかな)の内容を書き立てたものであった。三献ないし五献を普通とするが、丁重な宴ではそれ以上、十九献ぐらいまで出すこともあった。たとえば、1561年(永禄4)3月、将軍足利義輝(あしかがよしてる)が三好義長(みよしよしなが)邸に御成(おな)りのときの饗宴(きょうえん)では、100近い材料を献立に用い、湯漬けなど七膳を間に食しながら、酒宴十七献に及んだ例がある。のち、酒肴に限らず料理の品目取合せ一般を献立と称するようになった。
日本の献立の基本形は、飯、汁、菜から成り立ち、一汁三菜というように飯以外の数を表すことが多い。また本格的な献立では、本膳料理、懐石(かいせき)、会席(かいせき)料理の三つに大別される。本膳料理は、江戸時代に庶民の間に普及していた袱紗(ふくさ)料理の膳組みが受け継がれたもので、本膳が正面に、それに二~五の膳がつく。本膳のみ、あるいは本膳から三の膳までといったように省略することもある。一汁三菜から始まり、一汁五菜、二汁七菜、三汁七菜などがある。懐石は茶の湯に伴う食事で、一汁三菜が原則である。会席料理は、江戸時代に料理茶屋で行われた酒宴席向きの料理組みで、献立順位は酒を主にし、菜から進み、汁と飯は最後になる。このほか献立の種類には、行事食、集団給食、病人食などや、日常的な家庭料理の献立がある。ほとんど定型はなくなり、国籍不明的な料理の組合せが多くなってきている。
西洋料理では、日本の献立にあたるものをメニューmenuというが、メニューの場合は一品料理(アラカルト)も含まれ、いくぶん意味が異なる。西洋料理では、オードブル、スープ、魚料理、肉料理、氷菓子、蒸し焼き料理、サラダ、アントルメ(甘味料理)、チーズ、果物、飲み物が正餐(せいさん)の料理で、この順に組み立てられている。一部を抜いて簡略にすることもある。このほか、ビュッフェ・スタイル、カクテルパーティー、野外料理などがあり、それぞれに料理の組立てが習慣的にできあがっている。行事食など、特別の献立もある。中国料理では献立を菜単(ツァイタン)という。定型できっちりしたものはないが、だいたい前菜(チエンツァイ)、大菜(ターツァイ)、点心(てんしん)の3種から献立が成り立っている。
[河野友美]
食事の内容を構成する料理の種類とその組合せ,また,その順序を定めること。献立書(がき),献立表はそれを記したものであるが,現在では飲食店が客に販売する料理や飲物の品書(しながき)をいうことも多い。中国料理の場合は菜単(さいたん)/(ツアイタン),洋風料理の場合にはメニューと呼ぶのがふつうである。献立の語は室町後期の《祇園会御成記》(1522)や《浅井備前守宿所饗応記》(1534)あたりから見られ,それ以前は〈羞膳次第〉〈居物次第〉などの語が用いられていた。日本では古くから一献,二献といったぐあいにさかな(肴)を出しては酒をかさねていく饗膳方式がとられていたため,献立の語が生まれたようである。《茶湯献立指南》(1696)には,高貴の人の御成の場合の献立は毒見役,御目付各1人と料理人とで協議決定するとあり,《当流料理献立抄》(刊年不明)は饗膳を能に見立てて,〈料理は四座の能のごとし,献立は番組なり,魚鳥菜瓜は役者なり〉といっている。江戸後期になって会席料理が成立するが,これはそれまで支配層の儀礼的な饗膳に追随していた市民層が,繁雑な形式を排して実質的に酒と料理を楽しもうとする意欲を反映させたもので,宴席の献立内容はこれによって大きな転換をとげて現在に至っている。
執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…近世の市民社会の成立にともなって,各国に料理屋が出現し,現在ではそれぞれの国の料理技術の最も高度なものは高級料亭の料理人たちによって発揮される。
【料理の手順】
料理のマスタープランとなるものが献立である。ここでいう献立とは料理屋で客に料理を選択させるための品書きのことではなく,どのような料理を食卓に供するかを計画することをいう。…
※「献立」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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