日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
フェルナンデス・デ・モラティン
ふぇるなんですでもらてぃん
Leandro Fernández de Moratín
(1760―1828)
スペインの劇作家、詩人。18世紀スペインの著名な文学者ニコラス・F・デ・モラティンを父として、マドリードで生まれる。18世紀後半から19世紀初頭にかけてのスペイン新古典主義の潮流を代表する作家。カルロス3世から同4世にかけての啓蒙(けいもう)主義専制政治の時代に生き、公共教育の場として演劇を重視する政府の施策に積極的に協力し、演劇は「娯楽性」と同時に、教育の場としての「実用性」をも兼ねるべきとの独自の演劇理論を展開した。代表作に、当時の堕落したバロック演劇への痛烈な批判作『新作芝居』(1792)、適齢期の娘たちの家庭教育のあり方を説きながら、若い娘が困難を乗り越えて若い恋人と結ばれる過程を楽しくみせる『娘たちのハイ』(1806)などがある。いずれも三一致の法則を守り端正な仕上りの作品である。このほかシェークスピアの『ハムレット』やモリエールの『心ならずも医者にされ』などのスペイン語訳も残しており、彼自身が付した注は、彼の演劇理論を理解するうえに興味ある資料となっている。
[東谷穎人]
『会田由訳『娘たちの「はい」』(岩波文庫)』