改訂新版 世界大百科事典 「フォノンエコー」の意味・わかりやすい解説
フォノンエコー
phonon echo
二つの超音波パルス,または一つの超音波パルスと一つの電磁波パルスを,時間間隔τだけ離して絶縁体,半導体,金属などの物質に加えたとき,さらにτだけ後の時刻2τに位相のそろった超音波,または電磁波パルス信号が発射される現象およびそのパルス信号をいう。超音波が物質内を伝播(でんぱ)している場合と物質が音響的共鳴振動をしている場合とがある。物質内の原子や電子が超音波や電磁波に励起されるために生ずる現象で,第1パルスに励起された波と第2パルスに励起された波の単純な重ね合せの起きる線形の場合には生ぜず,二つの波の積が新しい波を作るような非線形の場合に初めて生ずる。波と波とが非線形な相互作用を起こす原因は物質によって異なり,絶縁体の場合は,電場の2乗以上に比例する誘電定数やひずみの2乗以上に比例する圧電定数のあるとき,フォノンエコーが生ずる。また,半導体の場合は,超音波や電磁波のために不純物準位から電子や正孔が伝導帯や価電子帯へ遷移するとき,その確率が外場の大きさに比例しないために生じ,金属,磁性体,圧電体の粉末の場合は,ひずみの大きさが外力に比例しないとき,例えば外力の2乗や3乗に比例する成分を含んでいるとき生ずる。ただし第1の超音波パルスを加えた後,超音波の振動が減衰しないうちに第2パルスを加えなければ,フォノンエコーは生じない。圧電性半導体のバルク結晶や粉末に,上記二つのパルスを加えた後十分時間が経過し,内部の超音波振動が完全に消えてから第3のパルスを時刻Tに加えると,時間間隔τだけ後の時刻T+τに位相のそろったパルス信号が得られる。これは記憶フォノンエコーと呼ばれ,超音波の波形で変調された不純物準位電子の空間分布や粉末粒子の回転角度にτという量が記憶されており,第3のパルスで読み出されたために生ずるものである。
執筆者:梶村 皓二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報