日本大百科全書(ニッポニカ) 「フンボルトの贈り物」の意味・わかりやすい解説
フンボルトの贈り物
ふんぼるとのおくりもの
Humboldt's Gift
アメリカの作家S・ベローの長編小説。1975年刊。フォン・フンボルト・フライシャーは若くして華々しく文壇にデビューしたが、そののち期待された成果もあげえず、酒と薬におぼれ、ついに狂気に陥り、窮死する。物語は、彼を慕って兄事した劇作家・伝記作家シトリンの回想と、彼の実生活の進行を交錯させた形で語られる。シトリンの成功をねたんで嫌がらせをするフンボルトだが、死ぬ前に贈り物をしていた。それは2人で戯れに書いた映画のシナリオで、結局それが映画化され大ヒットする。フンボルトはベローの友人デルモア・シュウォルツDelmore Schwartz(1913―1966)がモデルといわれる。科学文明に対応する詩人、詩精神の運命、現代における死についての情熱的な思索の書といえる。ピュリッツァー賞受賞。
[渋谷雄三郎]
『大井浩二訳『フンボルトの贈り物』(1977・講談社)』