改訂新版 世界大百科事典 「ベガンナ」の意味・わかりやすい解説
ベガンナ
beganna[アムハラ]
エチオピアの伝統的な弦楽器の一種。8~10弦の大型リラで,右手でかき鳴らされる。革張りの共鳴胴(縦約38cm,横約37cm,厚さ23cmくらい)から2本の腕木が上方に開いて突き出ており,その先端に約50cmの長さの横木を渡す。共鳴胴の前面下端に取り付けた緒止(おどめ)(駒)から弦を上方に張り渡し横木に縛り付けて調律する。全長(高さ)は約120cmに達する。大きいので演奏の際は通常床に据える。
このリラは古代メソポタミア・エジプトや古代ギリシアのキタラとほぼ同じ構造をもっており,それらと歴史的に関係をもっていたと想像される。エチオピアのもう一つのリラ(クラール。小型で6弦)がもっぱら民俗楽器として使われるのに比べ,ベガンナは宮廷の楽器とされ,エチオピア教会の宗教的な歌の伴奏にも使われ(ただし教会の中では用いられない),その低い荘重な響きは王侯貴族に好まれた。エチオピアでは旧約聖書(《サムエル記》16)に語られる〈ダビデの琴〉とは,このベガンナであったと信じられている。
執筆者:柘植 元一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報