サムエル記(読み)サムエルき(その他表記)Book of Samuel

精選版 日本国語大辞典 「サムエル記」の意味・読み・例文・類語

サムエルき【サムエル記】

  1. 旧約聖書の第九書。サムエル誕生からダビデの死まで(前一〇七〇頃‐前九七〇頃)の約一世紀間の歴史を編集したもの。主にイスラエル王国起源経過、ダビデによる統一過程を記す。古代イスラエル社会、宗教制度、倫理観などが知られる。

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改訂新版 世界大百科事典 「サムエル記」の意味・わかりやすい解説

サムエル記 (サムエルき)
Book of Samuel

旧約聖書の《士師記》と《列王紀》の間にある上・下2巻の歴史書。書名にもかかわらず,預言サムエルが主役を演じるのは上8章までと12章のみである。上1~7章は,シロ神殿に仕えたサムエルの少年時代,シロを中心とするイスラエル部族連合がペリシテ人に敗北した経緯,士師サムエルの活動などについて,上8~15章は,サウルがイスラエル初代の王に選ばれたいきさつ,サウルとペリシテ人の戦い,サウルとサムエルの仲たがいなどについて語る。上16~下8章には,サウルの宮廷に仕えた牧童ダビデが,多くの苦難を乗り越えてついにイスラエルとユダの王となり,大帝国を建設したことを物語る〈ダビデ台頭史〉,下9~20章には,ダビデの王子たちの争いと反乱などを伝える〈ダビデ王位継承史〉(《列王紀》上1~2章に続く)が認められる。最後に,下21~24章には,ダビデ王に関する種々のエピソードが収められている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サムエル記」の意味・わかりやすい解説

サムエル記
サムエルき
Shemuel; Books of Samuel

旧約聖書の歴史書の一つ。ユダヤ教では預言のなかに入れられる。ヘブライ語写本では元来1巻であったが,ギリシア語七十人訳聖書 (セプトゥアギンタ ) で初めて2巻に分けられ,名称も Samuelではなく Basileiōn (Regnorum王国の書) とされた。この区分はウルガタ訳にも継承され,今日ではこれが一般的である。
『サムエル記』は,イスラエルの王国建設の物語であり,その内容は (1) サムエルの誕生とシロの神殿での成長過程,(2) ダビデがサウルに召しかかえられ,やがて王となった経過,(3) ダビデ王の物語,王位継承史,(4) 追加の4部に大別される。
『サムエル記』には,多くの類似点や繰返し,矛盾が含まれている。王制の期限に関しての異なる記述 (サムエル上9・1~10・16,8章,10・17~27) ,王としてのサウルに重複して紹介されるダビデの記事 (サムエル上 16,17章) などが書かれている。『サムエル記』はいくつかの継続した資料をもとに作られたという説と,さまざまな伝説の独立した物語をまとめたという説があるが,後者の意見が広く受入れられている。また,『サムエル記』の資料は元来前 800年以前の旧資料と前8世紀末の新資料とがあり,これが前 550年頃ほぼ今日の形にまとめられたと推定されている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「サムエル記」の意味・わかりやすい解説

サムエル記
さむえるき
The book of Samuel

『旧約聖書』中の歴史書で、元来は1巻の書であったが、紀元前3世紀のギリシア語訳聖書で「列王紀」上下といっしょにされ、「王国の書」の二巻本となった。それ以来「サムエル記」は上下に分かれた。本書は、イスラエルに王国が成立した事情、そして初代サウル王とダビデ王の統治まで(前11~前10世紀の約1世紀間)を記している。ここには資料の系統など多くの文学的伝承層が認められ、預言者にして士師であったサムエル(前1040ころ登場)没後の王国史を語っているので、著者は、ユダヤ教タルムードが伝えているサムエル自身ではなく、その伝承記者たちで、最終的には、おそらく前6世紀前半の「申命記」史家が諸資料を客観的にまとめたもの(R・C・カールソン、M・ノートなどの説)である。サムエルの少年時代、サウル英雄史話、王国成立、ダビデ登場、ナタン預言とダビデ王国、優れた歴史記述である「王位継承史」ほかを通じて、一貫した神の選びの連続性が本書の主題となっている。

[吉田 泰]

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