サムエル記(読み)サムエルき(英語表記)The book of Samuel

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サムエル記」の意味・わかりやすい解説

サムエル記
サムエルき
Shemuel; Books of Samuel

旧約聖書の歴史書の一つ。ユダヤ教では預言のなかに入れられる。ヘブライ語写本では元来1巻であったが,ギリシア語七十人訳聖書 (セプトゥアギンタ ) で初めて2巻に分けられ,名称も Samuelではなく Basileiōn (Regnorum王国の書) とされた。この区分はウルガタ訳にも継承され,今日ではこれが一般的である。
サムエル記』は,イスラエルの王国建設の物語であり,その内容は (1) サムエルの誕生とシロの神殿での成長過程,(2) ダビデサウルに召しかかえられ,やがて王となった経過,(3) ダビデ王の物語,王位継承史,(4) 追加の4部に大別される。
『サムエル記』には,多くの類似点や繰返し,矛盾が含まれている。王制の期限に関しての異なる記述 (サムエル上9・1~10・16,8章,10・17~27) ,王としてのサウルに重複して紹介されるダビデの記事 (サムエル上 16,17章) などが書かれている。『サムエル記』はいくつかの継続した資料をもとに作られたという説と,さまざまな伝説の独立した物語をまとめたという説があるが,後者の意見が広く受入れられている。また,『サムエル記』の資料は元来前 800年以前の旧資料と前8世紀末の新資料とがあり,これが前 550年頃ほぼ今日の形にまとめられたと推定されている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「サムエル記」の意味・わかりやすい解説

サムエル記
さむえるき
The book of Samuel

『旧約聖書』中の歴史書で、元来は1巻の書であったが、紀元前3世紀のギリシア語訳聖書で「列王紀」上下といっしょにされ、「王国の書」の二巻本となった。それ以来「サムエル記」は上下に分かれた。本書は、イスラエルに王国が成立した事情、そして初代サウル王とダビデ王の統治まで(前11~前10世紀の約1世紀間)を記している。ここには資料の系統など多くの文学的伝承層が認められ、預言者にして士師であったサムエル(前1040ころ登場)没後の王国史を語っているので、著者は、ユダヤ教タルムードが伝えているサムエル自身ではなく、その伝承記者たちで、最終的には、おそらく前6世紀前半の「申命記」史家が諸資料を客観的にまとめたもの(R・C・カールソン、M・ノートなどの説)である。サムエルの少年時代、サウル英雄史話、王国成立、ダビデ登場、ナタン預言とダビデ王国、優れた歴史記述である「王位継承史」ほかを通じて、一貫した神の選びの連続性が本書の主題となっている。

吉田 泰]

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