ペテロ(読み)ぺてろ(英語表記)Petros

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペテロ」の意味・わかりやすい解説

ペテロ
ぺてろ
Petros
(?―60ころ)

イエスの十二使徒筆頭ペトロともいう。教会の最初の指導者。『新約聖書』の「福音書(ふくいんしょ)」および「使徒行伝(ぎょうでん)」に彼に関する記述があるが、かならずしも史的に厳密ではない。『新約聖書』のなかの「ペテロの第一、第二の手紙」は彼のものではない。彼の元来の名はシメオンシモン)。初めガリラヤで漁業に従事していたが、同地方を巡回していたイエスに出会い、その群れに加わった。イエスの死後まもなく、一種の幻視体験で復活者イエスに接したことから、イエスに対する信頼を新たにし、他の弟子たちの先頭にたってエルサレム教会を組織し、伝道に励んだ。このときから彼は、教会の土台としての岩という意味で、ペテロ(ギリシア語の岩=ペトラを男性化した名前。アラム語ではケパ)との呼び名を得たものと思われる。イエスに傾倒していた彼は律法に対して比較的自由な立場をとったため、ユダヤ王アグリッパ1世の迫害にあい、それ以後はエルサレム教会を離れて、ローマ帝国東半の各地で主としてユダヤ人に伝道した。最後はローマで活動し、ネロ皇帝の下で殉教したと伝えられる。彼はどちらかといえば素朴な人物であったらしく、思想的に大きい影響を残した形跡はない。しかし、イエスにより教会の岩とされ、天国の鍵(かぎ)を授けられた(「マタイ伝福音書」16章)という理由から、彼は古代教会以来、ことにローマ・カトリック教会で、使徒たちのなかでも特別に重要視された。ローマ教皇は彼の後継者とされている。

佐竹 明]

『O・クルマン著、荒井献訳『ペテロ 弟子・使徒・殉教者』(1965・新教出版社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ペテロ」の意味・わかりやすい解説

ペテロ
Pétros; Petrus

[生]?
[没]64頃. ローマ
十二使徒の一人で,初期キリスト教の指導者。聖人。本名 Simeon; Simōn。初代教皇在位 ?~64頃)とされる。もとはガリラヤ湖の湖畔ベツサイダの漁師バプテスマ(洗礼者)のヨハネの弟子だったが,ヨハネがイエス・キリストを神の子と認めた翌日,兄アンデレを通じイエスの弟子となった。ペテロの名は,イエスから与えられた名ケパ(アラム語で「岩」の意)のギリシア語訳に由来する。イエスを神の子キリストであると告白し,イエスにより十二使徒中の首位権を認められた。ゼベダイの子ヤコブや使徒ヨハネとともに最も愛された弟子だったが,性格は直情的で動揺しやすかった。イエスが捕えられたとき,師との関係を否認したが,イエスはこれを許した。イエスの復活(→キリストの復活)の最初の証人となり,教会の中心的指導者として活躍。ローマでの布教に際し皇帝ネロの迫害にあって殉教したとされる。祝日 6月29日。

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