日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミツバチのささやき」の意味・わかりやすい解説
ミツバチのささやき
みつばちのささやき
El espíritu de la colmena
スペイン映画。フランコ独裁時代の1973年に製作。ビクトル・エリセ監督の長編第1作。舞台はスペイン内戦終結直後の1940年、カスティーリャ地方の小さな村。6歳の内気なアナ(アナ・トレントAna Torrent、1966― )はミツバチを研究する高齢の父、若い母、姉イザベルと暮らしている。町にやってきた移動映画で『フランケンシュタイン』を見て、アナはその世界を信じ込む。イザベルは、それは全部作り物で、モンスターは精霊のようなものだから、友達になればいつでも呼び出せると話す。直後、アナは脱走兵を見つけ、食べ物と父の上着を与えたが、男は発見され撃ち殺される。それを知ったアナは夜に森をさまよい、映画のモンスターと出会う。幼女の、現実とも妄想ともつかない心の秘めやかな領域をきめ細かく描き、周囲の人々の行為が対比的に抑圧的空気を醸し出す。さまざまな象徴を張り巡らせてフランコ独裁への批判を暗示した。原題の「蜂の巣の精霊」は、劇作家モーリス・メーテルリンクの言葉で、蜂の社会がみせる、人間の理解を超えた強力で不可思議かつ奇妙な力をさしている。
[出口丈人]