日本大百科全書(ニッポニカ) 「メンター制度」の意味・わかりやすい解説
メンター制度
めんたーせいど
mentor program
職場で、知識や経験の豊かな先輩が後輩を指導・サポートする人材育成法の一種。メンタープログラムともいう。ギリシアの叙事詩「オデュッセイア」に登場する賢明な老人「メントル」にちなんだことばとされ、英語のメンターmentorには「よき指導者、助言者」の意味がある。原則、先輩であるメンターmentorと、後輩のメンティmenteeが1対1の関係を築き、後輩のキャリア形成上の課題や悩みについて、先輩がサポートする仕組みである。通常、メンターは直属の上司以外の人物が務め、定期的に面談(メンタリング)を重ねながら、メンティが自ら課題を解決し悩みを解消するように導く。メンティが次のメンターとなって指導・サポートする側にまわり、人と人とのつながりを次々に形成していくことをメンタリングチェーンmentoring chainとよぶ。なお、情報技術(IT)、環境、ダイバシティーなど旧来の価値観では対処しにくい問題に対応し、企業・組織の風通しをよくする目的で、経営層などのシニアが若手に教えを請う仕組みを、リバースメンター(逆メンター)制度という。
1980年代にアメリカの企業で、直属の上司以外の管理職が能力開発の助言をする取組みとして始まり、世界に広がった。日本では、終身雇用の慣行が崩れ、若年層の離職率が高まったことから、新人や若手に年齢が近い3年から5年くらいの先輩から助言を受けたり悩みを相談したりして、職場環境になじめるようにする事例が多い。女性管理職を育成する制度として導入する企業・官公庁も増えている。厚生労働省は2012年度(平成24)、女性社員の活躍を推進するための「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」を作成。2016年度から、メンター制度の採用企業を職場定着支援助成金(現、人材確保等支援助成金)の給付対象とした(新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)による雇用保険財政の悪化で2022年度から休止中)。
[編集部 2023年11月17日]