日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤシーヌ」の意味・わかりやすい解説
ヤシーヌ
やしーぬ
Kateb Yacine
(1929―1989)
アルジェリアの詩人、小説家、劇作家。代々の学者の家系に生まれ、コーラン学校を経てフランス系学校に入学。在学中独立闘争に目覚め、1945年のデモに参加、逮捕され放校になる。46年詩集『独白』を出版、48年詩『ネジュマ』を雑誌に発表して注目される。49年『アルジェ・レピュブリカン』紙の特派員となり、サウジアラビア、スーダン、旧ソ連、中央アジアを旅行した。50年父の死後、ジャーナリストをあきらめ、港湾労働者となり、以後職業を転々とかえた。小説では、とくに、希望と犠牲が同居する、独立前のアルジェリアの化身ともいうべき理想の女性ネジュマNedjmaを主人公に、愛と革命のドラマを綴(つづ)った『ネジュマ』(1956)が、プルースト、カフカばりの芸術性豊かな作品として評価が高い。戯曲に『包囲された屍体(したい)』を含む3部作『報復の輪』(1955)のほか、『知識の粉末』(1967)、『壺(つぼ)を手にするモハメッド』(1971)がある。73年にロータス賞受賞。
[土屋 哲]