改訂新版 世界大百科事典 「ヤースカ」の意味・わかりやすい解説
ヤースカ
Yāska
古代インドの学者。前5世紀ころの人。生没年不詳。ベーダ伝承のための補助学(ベーダーンガ)の一つである語源学に関する唯一現存する書物《ニルクタNirukta(語源論)》を著した。ベーダ文献の中でも最古のものである《リグ・ベーダ》の詩句は,当時すでに意味不明の語句を含む難解なものになっており,そのような詩句を解釈するための語彙に関する研究は,ヤースカ以前からかなり行われていた。こうした研究の唯一現存する成果である《ニガントゥNighantu(語彙)》に対し,語源論の立場からヤースカが加えた注釈が《ニルクタ》である。《ニガントゥ》は同義語の収集,多義語・難解語の収集,神名の分類を行っており,ヤースカはこれらの語彙に対し,語をできるかぎり分割していき,そこに意味のある語を見いだそうとした。当然この語源論は近代的語源学とは異なり,分割に際しては文法的分析もみられる一方,多くのこじつけを含んでいる。
執筆者:高橋 明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報