改訂新版 世界大百科事典 「ラシャペローサン」の意味・わかりやすい解説
ラ・シャペロー・サン
La Chapelle-aux-Saints
フランス南部の中央山地,ブリーブ・ラ・ジロー市の南40km,ラ・シャペロー・サン村の近くスドワール渓谷にあるブフィア・ボンバルBouffia Bonneval洞窟から,1908年にネアンデルタール人骨が発見されたので,ラ・シャペロー・サンが遺跡と人骨の名称となった。人骨は洞窟の中央部に埋葬されていた老人男性の個体骨格で,ブールM.P.Bouleによって研究され,ネアンデルタール人骨格の典型例とされた。脳頭蓋は低く長く広く,頭蓋腔容積(脳容積より10%ほど大きいので注意)は大きい(1600ml)。眼窩上隆起が発達し,後頭部には円髷状の隆起(シニオン)と特有の凹み(イニオン上窩)がある。顔面は上下に長く,中央付近が前方に突出しているとともに頬骨が斜めに後退している。鼻が大きく,鼻骨は高く隆起している。顎先(オトガイ)は傾斜後退していて,現代人のようなオトガイは見られない。歯は大部分が生前に抜けている。四肢骨は太く頑丈だが,短く,身長は160cmほどと推定された。ブールは,ネアンデルタール人に活発ではない愚鈍なイメージを与え,それが一般に流布し長く続いた。最近では,ネアンデルタール人は活発なハンターであり,知能も高かったと考えられている。年代は,かつては6万年前といわれたが,最近の電子スピン共鳴法では5万年前と報告されている。ムスティエ技法の石器が出土している。
→ホモ・ネアンデルタレンシス
執筆者:馬場 悠男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報