翻訳|Aeneas
ギリシア・ローマ伝説で,トロイア戦争におけるトロイア方の英雄,またローマ建国の祖。アンキセスAnchisēsと女神アフロディテの子。ギリシア名はアイネアスAineas。ホメロスの《イーリアス》では,彼はヘクトルと並び称される勇将であるだけでなく,トロイア方の武将のうち,神々の庇護の下に,ただひとり戦争を生きのびてトロイア人の新たな支配者となるべき人物と語られている。トロイア陥落後の話はラテン詩人ウェルギリウスの《アエネーイス》にひきつがれた。それによれば,父と家の守り神を背負い,一子アスカニウスAscaniusの手を引いて都を落ちた彼は,多数のトロイア人を率いて航海に出,シチリア島で父を亡くしたあと,漂着したカルタゴでは女王ディドの恋人となるが,やがて彼女を見捨ててイタリアに上陸,ラウィニウムを建設したという。のちアスカニウスはアルバ・ロンガを建設し,その子孫ロムルスがローマの建国者となった。
執筆者:水谷 智洋
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…古代ローマの詩人ウェルギリウス晩年の作。表題は〈アエネアスの歌〉の意で,トロイアの王子アエネアスがギリシア軍の侵攻の前に落城した祖国を父アンキセスと息子アスカニウスとともに脱出し,波乱万丈の放浪をへてイタリアにローマ帝国の礎となる新国家を建設するまでを,約1万行でうたいあげた建国叙事詩(12巻)である。ホメロスの《オデュッセイア》と《イーリアス》からは多大な影響を受けており,アエネアスの流浪,女王ディドが支配するカルタゴへの漂着,冥界下り等を描いた前半1~6巻は,多くのモティーフの共通性のゆえに〈オデュッセイア的前半部〉と呼ばれ,一方,イタリア上陸後の先住民族との戦闘を描く後半7~12巻は〈イーリアス的後半部〉と呼ばれる。…
…文字と各種の楽器をイタリアに伝えたほか,牧神パンをたたえるルペルカリア祭を創始したという。ウェルギリウスの叙事詩《アエネーイス》では,ローマ建国の祖アエネアスに援軍の兵を提供している。【水谷 智洋】。…
…この地で,1頭の牛皮で覆えるだけの地面の譲渡の約束をとりつけた彼女は,機転を働かせて皮を細く糸状に切り,これによって囲める限りの土地を入手,ここを拠点にカルタゴ(セム語で〈新しい町〉の意)を建設した。しかしそこへ,ギリシア軍に滅ぼされたトロイアの英雄アエネアスが漂着すると,女王は彼に恋し,二人は結ばれるが,ローマ建国の祖たるべき運命にあるアエネアスが,神命に従いイタリアめざして船出したとき,彼女は火葬壇に登って生命を絶ったという。この話はラテン詩人ウェルギリウスの叙事詩《アエネーイス》によってよく知られている。…
…老プリアモス王をはじめ男たちは殺され,ヘレネは元の夫メネラオスの手に戻されたほか,王妃ヘカベ以下の女たちは捕らえられ,ギリシアの英雄たちの有に帰した(敗戦の惨状についてはエウリピデスの悲劇《トロイアの女たち》《アンドロマケ》《ヘカベ》を参照)。ただアイネイアス(アエネアス)だけは危うく脱出に成功,新天地に新たなトロイアを築くこととなる。後のローマ人はこの伝承を受け継ぎ,新トロイアとはローマのことと解し,アイネイアスをローマ初代の王ロムルスの祖先に位置づけた(ウェルギリウス作《アエネーイス》を参照)。…
…あるいは対応するものの見いだしがたい神や多くの英雄は,ラテン語化した名称で受容したのであった。前者の例としてはゼウスはユピテルに,クロノスはサトゥルヌスに,ヘラはユノに,アフロディテはウェヌス(ビーナス)に,ディオニュソスはリベルに同一視されたし,ラテン語化による受容の例としてはアポロンがアポロに,アイネイアスがアエネアスとなった。と同時にそれぞれのギリシアの神々について語られた神話をも,ローマの神名に置き換えて受け入れることになった。…
※「アエネアス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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