日本大百科全書(ニッポニカ) 「アエネイス」の意味・わかりやすい解説
アエネイス
あえねいす
Aenēis
古代ローマの詩人ウェルギリウスの未完の長編叙事詩。「アエネアスの歌」の意。紀元前26年ごろから書き始められ、前19年、作者の死により未完のまま残された。12巻が現存。トロイの英雄アエネアス(ギリシア名アイネイアス)は、トロヤ戦争で祖国が滅んだとき神命に従って逃れ、生き残った者を率いて船出した。途中女神ユノからさまざまの迫害を受けるが、大神ユピテルや、アエネアスの母神ウェヌスに導かれて苦難を切り抜けた。カルタゴの女王ディドとの恋愛、彼女の自殺、冥界(めいかい)訪問などののち、イタリアのラティウムに到着し、その地の王ラティヌスの歓待を受けた。しかしユノの画策により両者の間に戦争が起こり、アエネアスはラティウム側の将軍トゥルヌスを一騎打ちで倒し、新しい国ローマの礎(いしずえ)を築いた。主題はアエネアスの武勲というより彼の人物像や行為に象徴的に表されるローマの歴史である。作者はローマの歴史を神話と結び付け、国民的叙事詩の創造を試みた。ギリシア文学とくにホメロスの叙事詩からモチーフや語句の借用がみられるが、詩全体の構想は独創的である。この詩はみごとな構成と磨かれた詩句ゆえに模範とされ、後世の文学に多大の影響を及ぼした。
[岡 道男]
『ウェルギリウス著、泉井久之助訳『アエネーイス』全二冊(岩波文庫)』