日本大百科全書(ニッポニカ) 「アフロディテ」の意味・わかりやすい解説
アフロディテ
あふろでぃて
Aphrodītē
ギリシア神話の愛と美と豊穣(ほうじょう)の女神。後のローマ神ビーナス(ウェヌス)と同一視されている。ホメロスによれば、ゼウスとディオネの娘であり、愛神エロスの母とされているが、ヘシオドスによれば、クロノスによって切断されたウラノスの男根の周りに集まった海の泡(アフロス)から誕生したとされている。
アフロディテは水泡から生まれると、西風に運ばれてキテラからキプロスに行き、そこで季節の女神たちに衣を着せられて神々のところへ導かれた。アフロディテは火と鍛冶(かじ)の神ヘファイストスを夫とし、軍神アレスとひそかに愛しあった。ホメロスの『イリアス』では、彼女はトロヤ方を援助し、『オデュッセイア』では、アレスとの密会をヘファイストスに見破られ、夫の網にかかって神々の前で醜態を演ずる。アレスとの間には、エロス、アンテロスなどの子が生まれた。またアフロディテは、ディオニソス、ヘルメス、ポセイドンなどの神々とも交わったが、アンキセス、アドニスら人間との恋愛話もあり、トロヤ人アンキセスとの間には英雄アイネイアスが誕生している。トロヤ陥落後この息子がローマを建設すると、女神はローマ人の母なる神として崇(あが)められた。生物誕生の源である愛欲がこのアフロディテの象徴であり、そのため女性の美と魅力のすべてが女神の姿に具現されている。
[小川正広]