ヘクトル(読み)へくとる(英語表記)Hector

翻訳|Hector

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘクトル」の意味・わかりやすい解説

ヘクトル
へくとる
Hector

ギリシア神話の英雄。ホメロス叙事詩イリアス』に歌われるトロヤ戦争におけるトロヤ方最大の勇士。トロヤ王プリアモスとヘカベの長男。無骨だが責任感が強く、ギリシアから美女ヘレネを奪い帰って戦争の原因をつくった弟パリスをののしりながらもつねに前線にたち、トロヤを1人で守り支えたとたたえられる。ギリシア方のアキレウスが、総大将アガメムノンに対する私怨(しえん)から戦列を離れている間、彼はギリシア軍を海辺まで撃退し、アキレウスの親友パトロクロスをも討ち取ったが、そのことがアキレウスの戦列復帰を促す結果となった。トロヤ城壁の上から息子に逃げてくれるよう両親が必死で嘆願したが、ヘクトルは踏みとどまってアキレウスを迎え、ついに決戦となって倒される。アキレウスはヘクトルの踵(かかと)に革紐(かわひも)を貫き、死体を戦車で引き回したが、神々がその死体の損傷を防いだ。

 また彼がアイアスとの一騎打ちに出かける前に、妻のアンドロマケと幼児アステアナクスとの間で交わす思いやりの場面(『イリアス』第六歌)はことに美しい。

[中務哲郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘクトル」の意味・わかりやすい解説

ヘクトル
Hektōr

ギリシア神話の英雄。トロイ王プリアモスとヘカベの長男。アンドロマケの夫,アステュアナクスの父。トロイ戦争で,トロイ方の総大将をつとめ,アポロンの保護のもとに武勇を発揮し,ことにアキレウスが,アガメムノンと不和になり戦闘から手を引いた間はギリシア軍を苦しめ,味方の劣勢を盛返そうとしてアキレウスの武具を借りて出陣したパトロクロスも打取り,武具を分捕った。そこで親友の死の復讐を誓って,再び出陣したアキレウスと一騎打ちを演じ,打取られた。彼の死骸は戦車に結びつけられて引回しのはずかしめを受けたが,父プリアモスが身代金をアキレウスに積み,遺体を取戻して手厚く葬った。

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