イーリアス(英語表記)Ilias

デジタル大辞泉 「イーリアス」の意味・読み・例文・類語

イーリアス(〈ギリシャ〉Ilias)

イリアス

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精選版 日本国語大辞典 「イーリアス」の意味・読み・例文・類語

イーリアス

  1. ( 原題[ギリシア語] Ilias )[ 異表記 ] イリアス 長編叙事詩。二四巻。ホメロス作と伝えられる。紀元前八世紀頃成立。ギリシア軍英雄アキレウス主人公に、トロイ戦争をうたったもの。ギリシア最古の古典イリアッド

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改訂新版 世界大百科事典 「イーリアス」の意味・わかりやすい解説

イーリアス
Ilias

オデュッセイア》と並ぶ,ホメロスによるギリシア最古の長編叙事詩(前8世紀中ごろ,1万5693行)。神話伝説的にはヘシオドスが《農と暦(仕事と日々)》でいう英雄時代,歴史的にはミュケナイ時代(前1600-前1100)を背景に,トロイア戦争を題材にする。物語はギリシアの遠征軍がトロイアを包囲して迎えた10年目の,ある49日間のできごと。アキレウスは全軍の会議の席で王アガメムノンにアポロンの怒りを鎮めるために,その神官の娘を返すよう迫るが,王は代りに彼の愛する捕虜の娘を奪う。この屈辱に怒ったアキレウスは以後の戦闘に加わることを拒み,戦局はギリシア軍に不利になるが,パトロクロスはアキレウスの武具を借りて出撃しヘクトルに討たれる。やっと怒りを解いたアキレウスは新たな武具を得てヘクトルを討ち取り,その遺骸を戦車につけて引き回し,親友を悼んで盛大な葬儀を営む。彼は遺体を請いに来た老プリアモスに故国の父をしのび,それを許す。詩は〈アキレウスの怒り〉を主題に,さまざまなエピソードと戦闘場面をはさみながら,神々と人間の織りなす壮大な世界をうたい上げる。この背景となるミュケナイ文明の衰退とともにギリシアは暗黒時代を迎えたが,英雄時代の記憶は口承によって吟誦詩人の集団の中に保存され,前8世紀半ばにホメロスという傑出した詩人により,現在の詩にほぼ近いものが作り上げられた。その口承伝説は前6世紀半ばにはアテナイパンアテナイア祭での朗誦の目的で文字化されており,そのほか各地に写本が流布していた。この流布本は前2世紀ごろアレクサンドリアの学者アリスタルコスによって校訂され,標準的なテキストが作られた。《イーリアス》は神々を人間と同じ欠点を持つ不道徳なものとして描いていると,クセノファネスプラトンは批判したが,アリストテレスホラティウスはその文学性を高く評価し,ヘレニズム,ローマ世界での重要な教科書として用いられた。ウェルギリウスはホメロスの詩に想を得て《アエネーイス》を書き,それはダンテ,ミルトンに影響を及ぼしている。《イーリアス》は大まかなラテン訳《イーリアス・ラティーナ》(紀元68以前)と,不完全なラテン語資料に基づくブノア・ド・サントモールBenoît de Sainte Maureの仏訳《トロイ物語》(1160ころ)によって,かろうじて中世,ルネサンス世界に知られた。後者は西欧の各国語に訳されて広く読まれ,この重訳をもとにして《トロイラスとクレシダ》をチョーサー(1372-86)とシェークスピア(1609)が書いた。ギリシア語の初版(1488)はカルコンデュレスDemetrius Chalcondyle(a)sにより,それ以後しだいに原典に基づいた正確な訳が現れる。ホメロスはウィンケルマンやゲーテに刺激を与え,ゲーテの《ヘルマンとドロテーア》はF.A.ウォルフの〈ホメロス問題〉提起(1795)がきっかけで書かれた。J.H.フォスの独訳(1793),チャップマンの英訳(1611)は重要で,キーツ,P.B.シェリーもホメロスから影響を受けた。A.ポープの韻文訳(1715-20)もある。邦訳としては土井晩翠の先駆的な韻文の完訳(1940)などがある。
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百科事典マイペディア 「イーリアス」の意味・わかりやすい解説

イーリアス

ホメロスによる長編叙事詩でギリシア最古最大の作品。全24巻。トロイア戦争10年目のある49日間,ギリシア軍の総大将アガメムノンのはずかしめを受けた勇士アキレウスが,怒って戦いから身を引いてしまったことに端を発する悲劇的な事件を語る。さまざまな英雄と神々が登場し,戦争の残忍さと英雄の悲劇的運命とが,さながら絵巻物のようにはなばなしく克明に描かれている。特にアキレウスとヘクトルという対照的な英雄像は鮮明である。→オデュッセイア
→関連項目アエネイス英雄叙事詩オデュッセウス

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世界大百科事典(旧版)内のイーリアスの言及

【アガメムノン】より

…その10年後,トロイアを陥落せしめ,所期の目的を遂げた彼は,みずからの婢妾としてトロイア王女カッサンドラを伴い,故国に凱旋したが,妃とその情人アイギストスに殺された。彼を主要な登場人物とする文学作品では,トロイア戦争中の彼とギリシア軍最大の英雄アキレウスとの争いを語るホメロスの叙事詩《イーリアス》,エウリピデスの《アウリスのイフィゲネイア》,アガメムノンの殺害とその子女オレステス,エレクトラによる仇討を描いたアイスキュロスの〈オレステイア三部作〉等の悲劇が名高い。【水谷 智洋】。…

【ギリシア神話】より


【資料】
 宗教的聖典の類を欠く古代ギリシアの神話伝説を伝えているのは,一般には文学とみなされているもので,ほぼ年代順に次のごときものである。ギリシア最古の文献でもあるホメロスの叙事詩《イーリアス》《オデュッセイア》。ついで神々の系譜の総合的整序の企てともいうべきヘシオドスの《神統記》と《農と暦(仕事と日々)》。…

【グラウコス】より

…彼はいとこのサルペドンとともにリュキア勢を率いてトロイアに出征,ギリシア軍と戦った。戦場でギリシアの英雄ディオメデスにまみえて名のりあったとき,互いの先祖の交誼を知って戦いを放棄,鎧を交換して別れた話はホメロスの《イーリアス》で有名。のちアキレウスの死体をめぐる戦闘で大アイアスに討たれた。…

【詩】より

…いずれにせよ,どちらの場合も,まず叙事詩,ついで抒情詩,劇詩が盛んになっている。 古代ギリシアはまず,ホメロスという伝説的な詩人の作と伝えられる二大叙事詩《イーリアス》と《オデュッセイア》を持つ。これはトロイア戦争を題材とする膨大な叙事詩群の一部をなすもので,紀元前8世紀ごろ成立したとされるが,実際にはそれ以前から長期にわたって吟遊詩人によって語り伝えられていたものらしい。…

【トロイア戦争】より

…トロイア戦争は英雄時代の最大のできごととしてギリシア文学,造形美術に計りがたい豊富な題材を提供した。前8世紀ころホメロスにより作られたとされる《イーリアス》と《オデュッセイア》がとりわけ重要かつ有名であるが,これら長編叙事詩も実は伝説のほんの一環を扱っているにすぎない。そこでホメロス以後,前6世紀ころにかけ,ホメロスの物語の前後を補う幾多の叙事詩が作られ,ここに戦争の発端から,参戦した英雄たちの後日譚に至る一部始終が網羅されることになった。…

【ベントリー】より

…また,1697年に発表のカリマコスの断片の最初の本格的集成をはじめ,他の学者の校訂版への協力という形でも本文修訂の手腕を発揮して,アリストファネス,プラウトゥス,ルクレティウス等から碑文に至るまでの幅広い古典文献を手がけた。晩年は新約聖書の最古のテキストを復元しようと試み,また〈ディガンマ〉がホメロスの韻律に残存している事実に気づいて,この文字を復活させた《イーリアス》の校訂版を出そうとしたが,いずれも未完に終わった。彼の数多い修訂は,おもに韻律や言語についての精密な古典学的知識に基づく理性的なもので,ときには合理主義に行過ぎも見られるが,古今未曾有の大修訂家として評価されている。…

【ホメロス】より

…古代ギリシア文学史の劈頭を飾る二大英雄叙事詩《イーリアス》ならびに《オデュッセイア》の作者と伝えられる詩人。生没年不詳。…

【本】より

…パピルスもおそらく早い時代にエジプトから輸入されたであろう。《イーリアス》が24巻に分けられたのは,すでにパピルス巻物がギリシアにおいても用いられるようになってから後のことである。《オデュッセイア》は《イーリアス》より少ない巻数におさめられるにもかかわらず,やはり24巻に分けられたのは,《イーリアス》と釣り合うためであろう。…

※「イーリアス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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