アブド(英語表記)`Abd

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アブド」の意味・わかりやすい解説

アブド
`Abd

イスラム法上の奴隷。厳密には男の奴隷をいい,女の奴隷は「アブダ」'Abdaという。法律上,主人の所有財産以外のなにものでもないとされたが,主人の代理として委任された範囲内でなら,取引の契約を結び負債を引受ける資格を認められていた。イスラム法上,奴隷の規定には,(1) 戦争捕虜となった非イスラム教徒,(2) 女奴隷の子であって,父が奴隷であるか,父が母たる女奴隷の主人でない者,(3) 購入された者,となっている。このように,イスラム社会中世に成立したにもかかわらず,法的に奴隷が厳存し,奴隷階級および奴隷制度が確立していて,古代以来の遺制を捨てきれずにいた。しかし奴隷の男女は,自由人とも自由でない者とも適法な婚姻を行うことを認められ,また契約解放の形式で,自由を獲得することも認められた。また,死亡した主人の遺言により,解放を許される場合もある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のアブドの言及

【奴隷】より

…日本の諸説と比較した場合,時期の設定がはるかに古くなっていることと,総体的奴隷制の考え方があまり適用されていないことが特徴といえるであろう。賤民【岩見 宏】
【イスラム社会】
 アラビア語では,自由人(フッルḥurr)に対して奴隷一般をラキークraqīqというが,通常は男奴隷をアブド‘abdあるいはマムルークといい,女奴隷をアマamaあるいはジャーリヤjāriyaと呼ぶ。イスラム法の規定では,奴隷は異教徒の戦争捕虜か女奴隷の子どもに限られ,債務奴隷の存在は原則として否定された。…

※「アブド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

大臣政務官

各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...

大臣政務官の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android