翻訳|liability
会計用語。他人資本borrowed capital,Fremdkapitalとも称される。企業に投下されている総資本のうち,個人企業の場合には事業主の見地からみて,株式会社の場合には株主と企業それ自体とを一体化した立場からみて,みずからが拠出し,もしくはみずからに帰属するとみなされる資本部分を自己資本またはたんに資本と称するのに対して,それ以外の資本部分,すなわち他人から調達し,もしくは他人に帰属するとみなされる資本部分を他人資本または負債と称する。個人企業の場合には,負債は,事業用の総資本の一部分を構成しているにもかかわらず,法律上,事業主個人の債務とみなされるため,事業用の総資産を積極財産というのに対して,負債を消極財産という場合もある。また,事業主,株主,または企業経営者の目には,他人資本の提供者が債権者と映るため,負債は債権者持分とも称される。しかしながら,企業会計上の負債,とりわけ株式会社会計上の負債は,今日では,条件付債務としての引当金以外の引当金をも含んでいることから明らかなように,そのすべてが法律上の債務から構成されているわけではないし,企業それ自体の立場を離れた第三者の立場から消極的な意味にしか概念構成されなければならないものではないので,在来の用語法はミスリーディングであることに注意しなければならない。
現代的な負債概念は,資本概念とともに,企業それ自体の立場から積極的かつ機能的に規定することができる。というのは,負債と資本はいずれも,企業が経営活動を営むなかでさまざまな形態で運用している資金をその調達源泉の局面からとらえた概念にほかならないからである。企業の資金調達という観点からいえば,負債と資本との間には基本的な性格のちがいはない。その両者の間には,資金源泉のちがいと,資金が企業の支配下から流出する時期のちがいとがあるが,それは,あくまでも相対的なちがいでしかない。今日,社債と株式とがそれぞれ多様化し,両者がきわめて接近してきたり,あるいは両者の性格を併せもつ転換社債が普及してきたことなどに象徴されているように,負債と資本との境界線は必ずしも明確ではなくなってきた。したがって,企業の資金管理の観点からいえば,法的債務とそれ以外との区別よりもむしろ,長期的に調達しかつ運用しうる資金であるか否かを判別するための短期調達資金(流動負債)とそれ以外の資金(長期借入金や社債などの固定負債と,純資産額としての各種の資本との合計額)との区別が最も重要である。負債の分類は,今日では種々の観点から行われるが,資金の調達源泉のちがいと支払時期の長短とに基づく分類が基本になることはいうまでもない。とりわけ,短期調達資金としての流動負債については,企業の主たる業務の一環をなす仕入取引から生じた買掛債務とそれ以外のものとの区別が重要視されている。
執筆者:杉本 典之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
過去の取引または事象の結果として、企業が支配している経済的資源(資産)を放棄もしくは引き渡す義務、またはその同等物。(1)法律上の債務と、(2)法律上の債務ではないが、債務と同じく、将来資産が減少しまたは役務を提供することを必要とするものに大別される。(1)に属するものには買掛金、支払手形、借入金、社債などが、(2)に属するものには負債性引当金、前受収益、未払費用などが属する。
負債は、実務上は流動負債と固定負債に大別される。流動負債に属するものは、(1)企業の主目的たる営業取引によって生じた債務(買掛金や支払手形など)、(2)(1)以外の原因によって生じた債務で、1年以内に支払期限の到来するもの(短期借入金など)、(3)引当金のうち、1年以内に使用される見込みのもの(修繕引当金、賞与引当金など)、(4)経過負債(前受収益、未払費用)である。
固定負債に属するものは、(1)1年を超えて支払期限が到来する債務(社債、長期借入金など)、(2)引当金のうち1年を超えて使用される見込みのもの(退職給付引当金、特別修繕引当金など)がある。
負債の評価については、従来あまり問題とされてこなかった。すなわち、法律上の債務であれば、契約によってその金額は確定しており、貨幣価値が変動してもその額は変わらないので、とくに評価の必要はないと考えられてきた。また、負債性引当金であれば、合理的に見積もられた将来の費用または損失のうち、当期の収益に対応する額を確定することにより金額は決まってきた。しかし、最近の会計基準では、長期の負債については利息要素を考慮することが一般的になってきている。たとえば、退職給付引当金でいえば、退職給付債務の算定には無リスクの利子率で割引計算が行われる。
制度上は、前記のように、負債はマイナスの資産という性質をもち、資産-負債=資本という資本等式に立脚している。これに対して、理論的には資産=負債+資本という貸借対照表等式に立脚した負債の解釈もある。この立場にたてば、負債は、資本とともに、資金の調達源泉を表していると解される。
[万代勝信]
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(小山明宏 学習院大学教授 / 2007年)
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…財産は,経済学上は簿記用語として用いられるし,法律上は,憲法に財産権の保障の規定(憲法29条)がみられるし,刑法では財産刑の対象となるが,最も多く用いられる法領域は民法,商法および各種の税法である。 簿記用語としては,財産とは一定会計単位組織の有する権利・義務のすべてを含むものとされ,それらは,積極財産(資産)と消極財産(負債)とに分類される。そして,積極財産はさらに有形資産と無形資産とに分けられ,前者は例えば現金,預金,商品,建物などであり,後者は売掛金,貸付金,特許権,営業権のようなものであるといわれている。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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