日本大百科全書(ニッポニカ) 「アレグザンダー」の意味・わかりやすい解説
アレグザンダー(Christopher Alexander)
あれぐざんだー
Christopher Alexander
(1936―2022)
オーストリア生まれのアメリカの建築家、都市計画家、思想家。ウィーンに生まれる。イギリスでケンブリッジ大学建築学士号、数学修士号を取得。1958年にアメリカに移り、ハーバード大学で建築博士号を取得。後にカリフォルニア大学バークリー校大学院教授、および建築科名誉教授。
1967年環境構造センターを創設。2000年「地球を再構築するのに捧(ささ)げるウェブサイト」と自任するパタン・ランゲージ・ドットコムを設立し、代表となり、世界の都市、政府などの都市計画のコンサルティングを行う。アメリカ芸術・科学アカデミー会員(1996)、スウェーデン王立協会会員、AIA(アメリカ建築家協会)ゴールド・メダル受賞。
著書『パタン・ランゲージ』A Pattern Language(1977)は20世紀の参加型都市計画、参加型建築設計を理論づけたもっとも重要な著作の一つである。家の内部から外部、家族、コミュニティ、界隈(かいわい)、都市に至るまでを家、都市、施工の三つのカテゴリー、253の「パタン」に分け、日常的な会話で用いることばで再構築してみせた。たとえば『パタン・ランゲージ』では、文法はこのように具体的に表されている。
「手近な緑(60)というパタンは、サブカルチャーの境界(13)、見分けやすい近隣(14)、仕事コミュニティ(41)、静かな奥(59)など特定のパタンと関係づけて考えなくてはならない。建築家が通常行う計画の論理、すなわちプログラムから、形態や材料、そしてディテールへと向かうトップダウンの方法は解体させられる」。この理論がユニークなのは、この方法を用い恩恵を被るのは建築や都市のデザイナーだけではなく一般の利用者、つまり住民も含まれる点である。アレグザンダーは、「パタン」はわれわれの環境に繰り返し発生する具体的なアクティビティであり、それを誘発する建築や環境の要素は、利用者であるわれわれの記憶にあるとする。アレグザンダーはその記憶を取り戻すことこそが重要であり、それをふたたび生き生きとして復活させる方法を理論化した。現在行われているまちづくり運動やまちづくりワークショップの手法はみな、なんらかの形でこの考え方の影響を受けている。
著書『オレゴン大学の実験』The Oregon Experiment(1975)、『パタン・ランゲージ』、『時を超えた建設の道』The Timeless Way of Building(1979)の三部作は「パタン・ランゲージ」のコンセプトと理論、辞典・文法書あるいはマニュアル、そして実践のレポートである。アレグザンダーの設計した盈進(えいしん)学園(1985、埼玉県)は「パタン・ランゲージ」を実際の学校建築に最初から最後まで採用したプロジェクトである。湖畔の蔵造りの集落のような光景、集落の路地のような外部空間、アルコーブ(室の壁面につくられる凹所)のある教室など、近代建築にはみられないキャンパスを実現した。
「パタン・ランゲージ」のセミラティス構造(各要素間で多様な結び付きを可能とする網目状の構造)による環境形成や形の生成に関する方法、住民参加によるインタラクティブなデザイン手法の理論は、オブジェクト指向に基づくコンピュータ・プログラムやコンピュータ・サイエンスにも多大な影響を与えた。
そのほかのおもな作品としては、オレゴン大学キャンパス(1975)、オレゴン大学学生寮(1993)などがある。
[鈴木 明]
『瀬底恒・寺尾和夫訳『人間都市』(1970・鹿島研究所出版会)』▽『稲葉武司訳『形の合成に関するノート』(1978・鹿島出版会)』▽『平田翰那訳『時を超えた建設の道』(1993・鹿島出版会)』▽『クリストファー・アレグザンダー他著、宮本雅明訳、西川幸治解説『オレゴン大学の実験』(1977・鹿島出版会)』▽『クリストファー・アレグザンダー他著、平田翰那訳『パタン・ランゲージ――町・建物・施工 環境設計の手引』(1984・鹿島出版会)』▽『クリストファー・アレグザンダー他著、難波和彦監訳『まちづくりの新しい理論』(1989・鹿島出版会)』▽『クリストファー・アレグザンダー他著、中埜博監訳『パタンランゲージによる住宅の建設』(1991・鹿島出版会)』▽『スティーブン・グランボー著、吉田朗・長塚正美・辰野智子訳『クリストファー・アレグザンダー』(1989・工作舎)』▽『イングリッド・F・キング著「クリストファー・アレグザンダーと現代建築」(『a+u』1993年8月号別冊・エー・アンド・ユー)』
アレグザンダー(Lloyd Chudley Alexander)
あれぐざんだー
Lloyd Chudley Alexander
(1924―2007)
アメリカの作家、児童文学作家。高校卒業後、一時ウェスト・チェスター州立教育大学に籍を置くが、1943年アメリカ陸軍に入隊、軍務でペンシルベニアのラファイエット・カレッジでフランス語とスペイン語を学び、後にウェールズに派遣され、第二次世界大戦後はパリに駐留中ソルボンヌ大学に学んだ。
彼は大人の本の翻訳の仕事のほかに、大人向けの小説を10作以上書いているが、過去のさまざまな国を移動する黒猫のタイム・ファンタジー『時をかける猫』(1963)以来、子供の文学が真の自己を表現できる開放的、創造的な文学であることを自覚し、この作品では使わなかったが少年期から強くひかれていたウェールズの神話・古伝説集『マビノギオン』を素材にして、「プリデイン物語」5巻を発表した。シリーズを構成する『タランと角の王』(1964)、『タランと黒い魔法の釜』(1965)、『タランとリールの城』(1966)、『旅人タラン』(1967)、『タラン・新しき王者』(1968。翌1969年度のニューベリー賞受賞)5巻は、アメリカ的な叙事詩的ファンタジーの分野を切り開いた。神話的世界で英雄時代さながらの冒険の数々を経ながら成長する少年像に、作者の抱く人間の未来像が明瞭に表現されている。
彼の特徴である人物描写の精確さと、自然で迫真性ある物語性は、『セバスチァンの大失敗』(1970。全米児童図書賞)、『人間になりたがった猫』(1973)、『木の中の魔法使い』(1975)など、独創的な着想をユーモアとペーソスと軽妙な風刺をこめて展開した作品を生んだ。彼の作品には魅力的な女性がよく登場するが、代表的な一人ベスパー・ホリーをヒロインとする『イリリアの冒険』(1986)、『エルドラドの冒険』(1987)、『ドラッケンベルグの冒険』(1988)、『ジェデラの冒険』(1989)、『フィラデルフィアの冒険』(1990)は、本格的冒険小説の醍醐味(だいごみ)を満喫させてくれる。さらに、彼は、1人の若者と、超自然力をそなえた少女と、ロバになった詩人が邪悪な預言者と戦う『アルカディアン』(1995)ほかで、叙事詩的ファンタジーを追い続けた。
[神宮輝夫]
『神宮輝夫訳『プリデイン物語1 タランと角の王』『プリデイン物語2 タランと黒い魔法の釜』『プリデイン物語3 タランとリールの城』『プリデイン物語4 旅人タラン』『プリデイン物語5 タラン・新しき王者』(1972、1973、1974、1976、1977・評論社)』▽『神宮輝夫訳『ユーモア作品集1 セバスチァンの大失敗』『ユーモア作品集2 人間になりたがった猫』『ユーモア作品集3 木の中の魔法使い』(1977・評論社)』▽『エバリン・ネス絵、神宮輝夫訳『プリデイン物語別巻1 (絵本)コルと白ぶた』『プリデイン物語別巻2 (絵本)フルダー・フラムとまことのたてごと』(1980・評論社)』▽『田村隆一訳『猫 ねこ ネコの物語』(1988・評論社)』▽『宮下嶺夫訳『ベスパー・ホリー物語1 イリリアの冒険』『ベスパー・ホリー物語2 エルドラドの冒険』『ベスパー・ホリー物語3 フィラデルフィアの冒険』(1994、1995・評論社)』▽『The Zena Sutherland Lectures 1983-1992 edited by Betsy Hearne(1993, Clarion Books, NewYork)』▽『Jaqueline Shachter WeissProfiles in Children's Literature(2001, The Scarecrow Press Inc., Lanham, Maryland and London)』