日本大百科全書(ニッポニカ) 「サブカルチャー」の意味・わかりやすい解説
サブカルチャー
さぶかるちゃー
subculture
下位文化または副次文化と訳される。ある社会の全体的な文化total cultureあるいは主要な文化main cultureに対比される概念である。つまり、ある社会に一般的にみられる行動様式や価値観を全体としての文化と考えた場合、その全体的文化の内部にありながら、なんらかの点で独自の性質を示す部分的な文化がサブカルチャーとよばれる。それは、全体社会のなかの特定の社会層や集団を担い手とする独特の行動様式や価値観であり、いわば「文化のなかの文化」である。具体的には、たとえば上流階級の文化、ホワイトカラーの文化、農民の文化、都会の文化、若者の文化、軍隊の文化、やくざ集団の文化などがこれにあたる。また、これらのサブカルチャーを一つの全体的文化(あるいは上位文化)とみて、さらにそのなかのサブカルチャーを考えることもできる(たとえば、若者文化youth cultureのサブカルチャーとしての学生文化など)。
サブカルチャーの概念は、もともと1950年代後半のアメリカ社会学における非行研究(非行少年が形成している独特の非行下位文化delinquent subcultureの研究)から発展してきたものであるが、今日では、前述のように、階層文化、年齢層文化、職業文化、地域文化など、さまざまの領域で広く用いられるようになっている。サブカルチャーは、全体的な文化から相対的に区別される独自性をもつ文化であるから、その文化に参与する人々に対して、支配的な全体文化のなかでは十分に満たされない欲求を充足させる役割を果たすことが多く、またそれらの人々に心理的なよりどころを与える場合も少なくない。と同時に、多様なサブカルチャーの存在は、全体としての文化の画一化を防ぎ、文化に動態性と活力とを与える働きをする。
サブカルチャーと全体文化あるいは主要文化との機能的な関係は、多くの場合、相互補完的である。つまり、サブカルチャーは、その独自性(全体文化あるいは主要文化との差異)を通して支配的な文化構造を補完し、その維持存続に貢献している場合が多い。しかし反面、サブカルチャーが、支配的文化に対立し抵抗する対抗文化counter cultureとしての働きをもつこともある。サブカルチャーの独自性が強く、その内容が支配的な文化に対して明確に批判的または敵対的であり、しかもそれが社会のなかである程度の影響力をもつような場合、サブカルチャーは対抗文化として作用し、支配的な文化構造の動揺や変動を導き、新しい文化形成の契機となることがある。たとえば、ヒッピーの活動や新左翼運動などを含む、1960年代後半から70年代前半にかけての先進的産業社会における若者文化には、明らかにそういう対抗文化的な性格がみられた。
[井上 俊]
『A. K. CohenDelinquent Boys (1955, The Free Press, U. S. A.)』▽『D. Arnold ed.The Sociology of Subcultures (1970, Glendessary Press, U. S. A.)』▽『T・ローザック著、稲見芳勝・風間禎三郎訳『対抗文化の思想』(1971・ダイヤモンド社)』