日本大百科全書(ニッポニカ) 「イリリア」の意味・わかりやすい解説
イリリア(民族)
いりりあ
Illyrians
バルカン半島のアドリア海沿岸からドナウ川流域までの旧ユーゴスラビアに含まれる地域を中心に、イタリア北西部から南はアルバニアに至る地方に住んだといわれるインド・ヨーロッパ語族の一派。文字資料が少ないために言語系統に関しては、不明な部分が多い。アルバニア人の祖先という説もあるが、確定していない。ヘロドトスなどの歴史書に散見される断片的記述、考古学的発掘資料により、その文化の概要がうかがわれる。紀元前7世紀ごろから古代ギリシア人がこの地域への植民を開始したが、彼らの目には、いれずみをし、人身御供(ひとみごくう)を行う戦闘的な野蛮人として映った。このほか、文献には、購売婚や女王の存在が記されている。
スロベニア、クロアチア、ボスニア、ダルマチアの各地の遺跡の発掘では、新石器時代以降の文化の存在が確認されており、イリリア人が前8世紀から前5世紀にかけてのハルシュタット鉄器文化の東方の担い手であったことは疑いないとされる。種々の鉄製武器、青銅製の装身具や祭具などからは、社会が支配者と被支配者層に分化し、小王国間の対立抗争があったことがわかる。火葬が行われ、特徴的な骨壺(こつつぼ)がつくられた。前4世紀ごろからスキタイやケルトの圧迫を受け、さらにローマの侵攻を受けた。前168年にローマ帝国の一部となり、ローマ化が進んだ。また6世紀以後は南下するスラブ諸族により吸収され、民族としての実体は失われていった。
[横山廣子]
イリリア(バルカン半島の地名)
いりりあ
Illyria
ヨーロッパ南東部、バルカン半島西部のアドリア海沿岸に定住したインド・ヨーロッパ語族のイリリア人の土地。イリリクムともいう。
[編集部]