改訂新版 世界大百科事典 「エンゲル法則」の意味・わかりやすい解説
エンゲル法則 (エンゲルほうそく)
Engel's law
家計の消費支出に占める食費の割合と所得水準との間で安定的に観測される経験法則をいう。その法則の発見者C.L.E.エンゲルの名にちなんでこう呼ばれる。〈エンゲルの法則〉ともいう。エンゲルは,1857年に著した論文〈ザクセン王国における生産および消費事情〉の中で,E.デューペショーやル・プレーらの行った家計調査資料をもとに,世帯の所得水準と食費の関係に一つの安定的法則性のあることを発見した。すなわち,〈世帯所得が高くなればなるほど,総消費支出に占める食費の支出割合が低下する〉という経験法則である。エンゲルはさらに,95年《ベルギー労働者家族の生活費》を出版したが,その中で,総支出に占める食費の割合,いわゆる〈エンゲル係数〉を求めて,それを5分位所得階級別に比較した。その結果は第1階級71.4%から第5階級64.9%まできれいにエンゲル係数は低下し,ここでもエンゲル法則が成立することが確かめられた。エンゲル以降,1875年にアメリカの労働統計局長官であったライトCaroll D.Wrightがマサチューセッツ州の労働者世帯のデータを用いて,エンゲル法則を確かめたのをはじめ,かなり普遍的にこの法則が成立することが知られている。日本の1981年の家計調査資料から,年間収入5分位階級別のエンゲル係数を求めると,第1分位0.32(32%),以下0.31,0.29,0.27,0.23となる。
エンゲル法則の発見は,家計の消費行動の数量的分析の発展に画期的影響をもった。20世紀に入ると,家計調査資料などに観測されるこれらの法則性を〈消費者選択の理論〉から整合的に解明しようとする分析が進むことになる。
→シュワーベの法則
執筆者:黒田 昌裕
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報