改訂新版 世界大百科事典 「消費者選択の理論」の意味・わかりやすい解説
消費者選択の理論 (しょうひしゃせんたくのりろん)
theory of customer's choice
消費者・企業という個別経済主体の行動分析を通じて,経済全体の動きを分析することがミクロ経済学の目的である。ミクロ経済学では,経済主体は合理的に行動すると想定し,そこから経済の一般法則を導き出そうとする。ここで合理的とは,〈限られた手段の中から自己の目的を最大にするものを選ぶ〉という意味である。消費者選択の理論は,ミクロ経済学において消費者の行動を分析する理論で,その目的は,財に対する需要がいかに決定され,それがどのような性質をもつかを明らかにすることである。
この理論では,まず,消費者は財の組合せに対する選好順序preference orderをもっている,と想定する。かりに食料3単位と衣料2単位という組合せXと,食料7単位と衣料1単位という組合せYの,いずれか一方を選ぶとすると,(1)Xを選ぶ,(2)Yを選ぶ,(3)同程度の好ましさ(このとき,XとYとは互いに無差別indifferentであるという),のいずれかが答えられる。答えられるというのは,消費者が組合せに対し好ましさで順序づけを行うからであり,この好ましさの順序を選好順序と呼ぶ。消費者のもつ選好順序は,ある条件を満たせば効用関数(この関数の値を効用という)として表される。消費者選択の理論では,消費者は,限られた予算で購入可能な財の様々な組合せの中から,効用を最大にするものを選ぶ,という合理的行動仮説を設ける。この仮説のもとで消費者の需要がいかに決定されるかは,図から読み取れる。ある予算(あるいは所得)の範囲で購入可能な財の組合せが,三角形ABO上にあるとする。つまり,予算をすべて衣料(食料)に費やせば,OA(OB)単位まで購入できる。この線分ABを予算線budget lineと呼ぶ。他方,この図にはU1,U2,U3の3本の無差別曲線が描かれている。無差別曲線とは,その曲線上の任意の2点の効用が互いに無差別となる曲線で,したがって,CとDとは無差別で,EとFとも無差別である。また,U1よりU2のほうが,U2よりU3のほうがより好ましいという性質がある(食料が同単位だから,衣料の多いGのほうがFより好ましい)。すると,予算制約のもとでの効用の最大化は,予算線と無差別曲線との接点Eにおいて実現している。なぜなら,点Eから三角形ABO上をいかなる方向に移動しても,好ましさはU2より劣るからである。したがって,点Eが消費者の財への需要を表しているのである。
執筆者:賀川 昭夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報