オスモン(その他表記)Floris Osmond

改訂新版 世界大百科事典 「オスモン」の意味・わかりやすい解説

オスモン
Floris Osmond
生没年:1849-1912

フランスにおける金属組織学の創始者。中央工芸学校出身。1880年からクルーゾー製鉄所で鉄鋼の顕微鏡組織を研究し,84年以後パリでH.L.ル・シャトリエ,L.J.トルーストの研究室で熱分析法も用いて研究を続けた。85年から鋼の焼入硬化の原因はβ鉄(鉄の同素体の一つ)にあるという理論を主張した。これに対して,β鉄は軟らかくて硬化の原因とはならないとするJ.O.アーノルドとの論争は有名。熱分析法によって鉄鋼の諸変態点の存在を確認し,塩化鉄の水素還元法で鉄同素体(α,β,γ鉄)の結晶系を決定した。金属の顕微鏡組織の研究方法を前進させ,彼が命名した鉄鋼組織の名称(オーステナイト,マルテンサイトなど)は今日もそのまま使用されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「オスモン」の意味・わかりやすい解説

オスモン
おすもん
Floris Osmond
(1849―1912)

フランスの科学者で、鉄の変態の発見者。初めクルーゾ製鉄所に勤務したのち、パリの自宅に退いて研究に専念した。ル・シャトリエの光学高温計で熱分析を行い、1886年、固体の鉄が加熱・冷却過程で、α鉄(アルファてつ)、β鉄(ベータてつ)、γ鉄(ガンマてつ)と構造上変態を遂げることを発見した。β鉄変態は後の学者により磁性変態であることが立証される。オスモンの発見は当時は受容されなかったが、同一性を保持しながら行われる個体内での変態が物質界一般の現象であることが解明されるに及んで、金属の科学の基礎となった。

中沢護人

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世界大百科事典(旧版)内のオスモンの言及

【鉄】より

…18世紀から19世紀にかけて鉄鋼の化学が技術に衝撃を与えたとすれば,19世紀から20世紀にかけては鉄鋼の物理化学と結晶構造学が技術に衝撃を与えた。1863年のH.C.ソルビーの炭素鋼から晶出および析出する結晶(フェライト,セメンタイト,パーライト,グラファイトなど)の顕微鏡による発見,マルテンスA.Martens(1850‐1914)の1878年論文の同じ発見,ロシアのD.K.チェルノフの1868年論文の樹枝状晶および結晶粒の成長に関する理論および焼入れ焼戻しの理論,F.オスモン(1849‐1912)の80年代の鉄の変態(α鉄,β鉄,γ鉄)の発見,オーステンW.Roberts‐Austen(1843‐1902)の97年論文の,そしてH.W.B.ローゼボームの1900年論文の鉄と炭素の状態図は,炭素鋼の凝固過程の晶出析出の全貌を明らかにした。その後はあらゆる合金鋼の状態図が調べられていくのである。…

【鋼】より

…19世紀に入るとベリマンの成果はドイツのカルステンKarl Johann Bernhard Karsten(1782‐1853),ランパディウスWilhelm August Lampadius(1772‐1842)らによって引き継がれ,高炉では吸炭が,精錬炉では脱炭が,浸炭法では吸炭が生じることなどが明らかにされた。また合金鋼に関するM.ファラデーの研究,鉄鋼の変態点に関するロシアのチェルノフDmitrii K.Chernov(1839‐1921)の研究,鉄鋼の顕微鏡組織に関するイギリスのソルビーHenry Clifton Sorby(1826‐1908)やドイツのマルテンスAdolf Martens(1850‐1914)の研究,鉄鋼の変態に関するフランスのF.オスモンの研究,鋼中の炭素の役割に関するイギリスのJ.O.アーノルドの研究,鉄鋼の状態図に関するイギリスのオーステンWilliam Roberts Austen(1843‐1902)やオランダのローゼボームHendrik Willem Bakhuis Roozeboom(1854‐1907)らの研究が相次ぎ,鋼の硬化と熱処理,組織,状態図との関係など,今日の鋼の物理冶金学の基礎が築かれた。鋼の組織の名前であるソルバイト,マルテンサイト,オーステナイト,トルースタイト,レーデブライトなどは,それらの先人の業績にちなんで命名された。…

※「オスモン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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