キニコス学派(読み)きにこすがくは

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

キニコス学派
きにこすがくは
kynikoiギリシア語
Cynics英語

古代ギリシア哲学の一派。キニク学派、犬儒(けんじゅ)学派の名もある。ソクラテスの弟子アンティステネスに始まる。「徳に生きる」というのが彼のモットーだが、その徳とはソクラテスの質素で禁欲的とみえる一面のことであった。キニコスの名は、彼の学校がアテネ郊外のキノサルゲスにあったからとの説もあるが、むしろ、シノペのディオゲネスに代表される「犬のような生活」(キニコス・ビオスkynikos bios)からきたものらしい。一枚の衣に、杖(つえ)と頭陀(ずだ)袋を携えて町をさまよい歩き、樽(たる)に住んだというこの乞食(こじき)哲学者は、自ら「犬のディオゲネス」と名のっていた。「神々はなにも必要とせず、神々に近いものはわずかなものしか必要としない」というのが彼の口癖であり、社会の習慣はもとより、理論的学問や芸術に対しても否定的な態度をとった。古人はこの点を評して、キニコス主義とは「徳への近道」のことであるといっている。
 このキニコスに語源を発する近代語のシニカルcynicalという形容詞は、「皮肉屋の」「冷笑的な」といったほどの意であるが、これはディオゲネスの、世間の秩序に対する徹底した嘲笑(ちょうしょう)的姿勢に由来する。彼は白昼に提灯(ちょうちん)をかざし、「人間はいないか」と叫びながら群衆のなかを歩いたという。キニコス学派にはほかにクラテス、ヒッパルキア、メトロクレス、メニッポスらの名が伝えられ、彼らの生き方は後のストア学派などにも影響を与えた。[田中享英]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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