デジタル大辞泉
「世間」の意味・読み・例文・類語
せ‐けん【世間】
《3が原義》
1 人が集まり、生活している場。自分がそこで日常生活を送っている社会。世の中。また、そこにいる人々。「世間を騒がした事件」「世間がうるさい」「世間を渡る」
2 人々との交わり。また、その交わりの範囲。「世間を広げる」
3 仏語。生きもの(衆生世間)と、それを住まわせる山河大地(器世間)、および、生きものと山河大地を構成する要素(五陰世間)の総称。
4 人の住む空間の広がり。天地の間。あたり一面。
「俄に霧立ち、―もかいくらがりて」〈大鏡・道長下〉
5 僧に対する一般の人。俗人。
「ある律僧、―になりて子息あまたありけるうち」〈沙石集・三〉
6 社会に対する体面やそれに要する経費。
「―うちばに構へ、又ある時は、ならぬ事をもするなり」〈浮・永代蔵・四〉
7 この世の生活。財産。暮らし。境涯。
「武州に―ゆたかなる、所の地頭あり」〈沙石集・九〉
[類語](1)世・世の中・天下・江湖・社会・実社会・世上・世俗・俗世・人世・人間・俗間・民間・巷間・巷・市井・浮き世・娑婆・塵界・世界・人中・浮き世・一般
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せ‐けん【世間】
- 〘 名詞 〙
- ① 仏語。
- (イ) ( [梵語] loka の訳語。壊され否定されていくものの意 ) 生きもの(有情世間)とその生きものを住まわせる山河大地(器世間)、あるいはこれら二つを構成する要素としての五蘊(五蘊世間)の総称。
- [初出の実例]「至極大聖尚有二愛レ子之心一 况乎世間蒼生誰不レ愛レ子乎」(出典:万葉集(8C後)五・八〇二・序文)
- (ロ) ( [梵語] laukika の訳語。世間に属するものの意 ) 世俗。出世間に対して、聖者の位に達しない凡夫などをいう。
- [初出の実例]「五百の皇子忽に生死の無常を観じ、世間の受楽を猒(いとひ)て出家し給ふ也」(出典:今昔物語集(1120頃か)五)
- [その他の文献]〔勝鬘経‐一乗章〕
- ② 人が生活し、構成する現世社会。この世の中。この世。
- [初出の実例]「此皇子。風骨不レ似二世間人一。実非二此国之分一」(出典:懐風藻(751)大友皇子伝)
- 「かく、物を思ひたるさまにて月を見給ぞ。うましき世にと言ふ。かぐや姫、見れば、せけん心ほそく哀に侍る」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
- 「爰にたよる男は〈略〉、養子にきたる人の万に気かねて忍び行など、世間(セケン)恐れぬ人のたよるべき所にはあらず」(出典:浮世草子・好色一代女(1686)六)
- ③ 人の住む空間のひろがり。天と地のあいだ。あたり一面。
- [初出の実例]「俄に霧立ち、世間もかいくらがりて侍りしに、東西もおぼえず」(出典:大鏡(12C前)六)
- ④ 人々とのまじわり。世間づきあい。また、世間に対する体面。転じて、そのための経費などをいう。
- [初出の実例]「境といふ所は〈略〉世間(セケン)うちばにかまへ、又有時は、ならぬ事をもする也」(出典:浮世草子・日本永代蔵(1688)四)
- ⑤ この世の生活。暮らしむき。生計。また、身代。家産。財産。
- [初出の実例]「彼地頭、世間も衰へ、遂に身まかりぬ。只一人有ける子息に財宝も所領もなければ」(出典:米沢本沙石集(1283)七)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
世間 (せけん)
元来は仏教用語で,サンスクリットloka(場所,領域)の漢訳語であり,世の絶えざる転変・破壊のさま,すなわち遷流を指す。またサンスクリットlaukika(世俗)の訳語でもあり,出世間(出家)して僧になるのではなく,俗世間にいることをいう。こうした原義から派生した形で,有為転変する世俗的な人の世,すなわち世の中,世界を指す用語となった。そうした意味での世間を表す語として,中国語の〈人間(レンジヤン)〉がある。だが日本語での〈人間〉は,〈じんかん〉における人,すなわち〈にんげん〉であって,世の中そのものではない。しかし世間といえば,世の中それ自体とともに,世の人々という含意をも併せもっている。結局,日本人にとって世間とは,自分たちの活動・交際する場としての社会と,そこに住んでいて自分と直接・間接のかかわりをもつ人たちのことである。こうした日常語としての世間は,societyの翻訳語である〈社会〉とは語感を異にする。〈社会〉は,それを構成する個人の集合体であり,各人それぞれの利益・利権を守るための社交の仕組み,ないしそのための集団的組織を指している。その際,互いに知らない者どうしの結合を前提にしている。もちろん〈社会〉にも,仲間どうしの結びつきという語義はあるが,何らかの意味で顔見知りであることを前提とする世間とは,基本的に性格を異にする。〈世間は広いようで狭い〉という言い方や,〈渡る世間に鬼はない〉ということわざからも察せられるように,それはあらかじめ縁によって取り結ばれている世界なのである。思いもよらず互いに身近な者どうしだとすれば,困ったときには援助を受けられるはずだ,といった期待さえあるのである。また,〈社会〉には,個人の外側にあって,個人の行動の自由を束縛する全体的な制度だとするニュアンスがある。そこで欧米では,相対立する社会と個人のどちらが真に実在する存在であるかについて見解が分かれ,社会実在論(社会は個人をこえた一つの実在だとする考え)と社会名目論(社会それ自体の実存を認めず,個人の相互関係に還元する考え)という形で争われてきた。だが世間の場合は,それは各人にとって外在する拘束的な機構ではない。むしろ広い範囲に及ぶ自分の生活空間であって,あくまで外側に向けて拡大された内部世界である。〈世間が広い〉〈世間が狭い〉といった表現は,当人の生活空間の広さについての他者の評価をいうのである。〈世間なれ〉〈世間ずれ〉〈世間知らず〉〈世間見ず〉〈世間ばなれ〉なども,当人と世間との一体化の程度を示す用語である。しかし世間は,本人の行動にとって一種の基準枠ともなる。いわば,準拠集団reference groupとしての性格をも備えている。〈世間を騒がせた〉だけで公職を辞したり,犯罪者の家族が〈世間に申しわけない〉とか〈世間に顔向けができない〉と詫び恥じるのは,世間が行為の是非の判定者として機能するからで,そこから,本人は〈世間体〉を強く意識するにいたる。〈世間〉をおもんぱかり,恥をかかないようにするのである。
→世間話
執筆者:浜口 恵俊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
普及版 字通
「世間」の読み・字形・画数・意味
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
世間
せけん
loka
仏教用語。世界と同じ意。 lokaに属するものという意味でラウキカ laukikaという語があるが,これもまた世間と訳され,「世俗」という意味に用いられる。世間は,移り変り,破壊を免れない迷いの世界という意味である。衆生をさす有情世間と,山河大地などの器世間との2種に分ける場合と,この二種世間を構成している五蘊世間を含めて3種に分ける場合とがある。また五蘊世間の代りに二種世間を教化する化身をさす智正覚世間を含める場合もある。
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世界大百科事典(旧版)内の世間の言及
【公界】より
…公共のものをさし,井田の中央を公界といったともいうが,無学祖元の〈円覚公界〉という表現,〈雲堂公界の坐禅〉(《正法眼蔵》),〈公界人〉(東福寺文書)などの用例からみて,俗界から離れた修行の場や修行僧を意味するものと思われる。南北朝時代には〈述懐ハ私事,弓矢ノ道ハ公界ノ義〉(《太平記》)のように,私事に対する公をさす語として,一般的に使われはじめ,室町・戦国時代に入ると,公界は世間・公衆の意味で,内々,内証に対する言葉として広く用いられるようになった。それとともに,公界者,公界衆は私的隷属民(下人,所従)とは異なる遍歴の職人,芸能民をさし,遍歴の算置(さんおき)が公界者に手をかけることを昂然と拒否したような(狂言《居杭(いぐい)》),積極的な意味を持つようになる。…
【他所者】より
…その社会とまったく関係のない者は他所者と呼ばれることもないが,なんらかの形で接触・交渉が生じると,他所者と認識され,そのように呼ばれることになる。日本の伝統的な村落社会においてはウチとソトを区別する観念は強く,ムラに対しソトの世界をセケン(世間)とかタビ(旅)といった。人間についても自分たちの仲間とそうでない者を明確に区別し,セケンやタビの者を他所者として位置づけた。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」