ディオゲネス(読み)でぃおげねす(英語表記)Diogenēs ho Sinōpeus

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ディオゲネス」の意味・わかりやすい解説

ディオゲネス(シノペのディオゲネス)
でぃおげねす
Diogenēs ho Sinōpeus
(前404ころ―前323ころ)

古代ギリシア哲学者。黒海沿岸の町シノペに生まれる。偽金鋳造のかどで故郷を追われアテネに住み、アンティステネスに師事したと伝えられる。多くの著作が彼に帰せられているが、真偽のほどは疑わしい。幸福とは人間の自然欲求をもっとも容易な方法で満足させることである、自然なものは恥ずかしくも見苦しくもないから公にすべきである。この原理に反する慣習は自然に反するものであって従うべきではない、などと説き、これに倣って、自らも貧乏無恥に支えられた自足の生活を送った。このため、「犬」とあだ名され、その一派はキニコス(犬の)学派とよばれるに至った。日光浴をしていたとき、アレクサンドロス大王がやってきてそばに立ち、「望みがあれば申し出よ」とことばをかけたところ、「わたしの日陰になってくれるな」と答えたという話は有名である。

鈴木幹也 2015年1月20日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ディオゲネス」の意味・わかりやすい解説

ディオゲネス[シノペ]
Diogenēs

[生]前412頃
[没]前324頃.コリント?
シノペ出身のギリシアの哲学者。小ソクラテス学派のキュニコス派の代表的存在で,「樽のディオゲネス」として有名。一説にアンチステネスの弟子。「社会的風習蔑視」の罪で告訴され,故郷を追放された。アテネに出たのちも,あらゆる慣習的行為や社会通念を軽蔑し極貧の生活に甘んじた。幸福はただ自然的欲求に従った苦労のない自由な生活,すなわちソクラテス的な意志の強さによる節制と無恥の心に支えられてなにものをも顧みることのない自足の生活のうちにあると考えた。アリストテレスはこのような生活態度をとらえて犬と呼んだが,この学派の生活態度は一体にそうであったのでキュニコス (犬のような) 派といわれた。アレクサンドロス大王とのことをはじめ,彼についての逸話は多いがいずれも疑わしい。著作としては,無政府主義的なユートピアの生活を描いた『国家』のほかは,彼のものとされる悲劇も対話篇も真作かどうか確かでない。

ディオゲネス[アポロニア]
Diogenēs

前5世紀頃のギリシアの折衷主義的哲学者,自然学者。アナクサゴラスの同時代者。ミレトス派のアナクシメネスとアナクサゴラスの教説の折衷を試み,万物のアルケを空気とする一方,万物を秩序づけるものとして理性を要請した。著書としては『自然について』 Peri physeōsの断片が伝わる。

ディオゲネス[セレウケイア]
Diogenēs

[生]前240頃
[没]前152頃
チグリス河岸のセレウケイア出身の初期ストア派の哲学者。バビロニアのディオゲネスともいわれる。クリュシッポスの弟子。タルソスのゼノンを継いでストア派の学頭となる。文法学の発展に寄与した。パナイティオスの師。

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