日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
コーン(Walter Kohn)
こーん
Walter Kohn
(1923―2016)
アメリカの理論物理学者。1923年オーストリアのウィーンでユダヤ人の中流家庭に生まれる。両親をナチスによるユダヤ人迫害により失う。イギリス、カナダで疎開生活を送り、トロント大学に入学。1944~1945年カナダ軍に加わり、1945年トロント大学を卒業。ハーバード大学に進学し物理学を専攻、1948年に博士号を取得後、カナダに帰化。1950年ピッツバーグのカーネギー工科大学(現、カーネギー・メロン大学)教授。1957年アメリカに帰化し、1960年カリフォルニア大学サン・ディエゴ校教授。1979年よりカリフォルニア大学サンタ・バーバラ校理論物理研究所長、1984年同大学教授となる。
固相物理や多体問題の研究などを経て、1960年代に密度汎関数理論(みつどはんかんすうりろん)を開発した。それまでは分子の量子化学的な構造、性質を知るためには莫大な量の計算が必要であったが、分子中の電子の密度を関数とみなすことで、そのエネルギー状態をより実用的に計算できるようにした。この功績により、1998年のノーベル化学賞を受賞した。なお、量子化学における計算プログラムを開発したJ・ポープルとの同時受賞であった。
[馬場錬成]