サンガム文学(読み)サンガムぶんがく

改訂新版 世界大百科事典 「サンガム文学」の意味・わかりやすい解説

サンガム文学 (サンガムぶんがく)

タミル地方(南インド)最古の文学作品。シャンガム文学ともいわれる。おもに1世紀から3世紀にかけて,500名近くの詩人によってつくられた抒情詩を集大成したもので,〈サンガムSangam(宮廷文芸院)〉で編さんされたという伝説に基づいて〈サンガム文学〉と通称される。遅くとも13世紀ころまでに全体が《エットゥトハイ(八つの詞華集)》と《パットゥパーットゥ(十の詩編)》に二分され,前者は3行から31行の長さの短詩を2371編,後者は103行から782行の長詩を10編含んでいる。サンガムの作品は伝統的に,恋愛をテーマとする〈アハム(内的)〉と戦争に題材を採る〈プラム(外的)〉の二つのジャンルに分けられるが,内容的にはそのほとんど(約8割)が恋愛を描く〈アハム〉のジャンルに属している。男女の出会い,諍(いさか)い,別離といった日常のできごとを描き,王侯貴族だけでなく庶民も主人公として現れるサンガムの作品は世俗文学としての性格が濃く,この点,宗教的作品が大半を占めるサンスクリットの古典文学と好対照をなしている。アーリヤ文化が南インドに深く浸透する以前につくられたサンガム文学はまた,古代タミル人の生活様式人生観美意識を知る希少な資料としても価値がある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のサンガム文学の言及

【インド文学】より

…【大西 正幸】
[タミル文学]
 ドラビダ民族は,インド亜大陸南部に住むインドの先住民族であるが,彼らの主要グループであるタミル人は,紀元初頭にまでさかのぼる文献を豊富に所有しており,それらの資料は古代インド文化を知る上で,サンスクリット文献に次ぐ重要な位置を占めている。後1世紀から3世紀にかけて主要部分が成立した現存最古のタミル文学《エットゥトハイEṭṭutokai(八つの詞華集)》と《パットゥパートゥPattuppāṭṭu(十の詩編)》は,恋愛や戦争をテーマとした抒情詩や王に対する賛歌がおもな内容で,宮廷学士院〈サンガム〉で編纂されたという伝説に基づいてサンガム文学と呼ばれている。サンスクリット文学と比較して,サンガム文学は世俗的性格が強く,短い韻文の形式を好む点に特色がある。…

【チョーラ朝】より

…前3~前1世紀の諸史料にもチョーラ,チェーラ,パーンディヤ3王国の存在が認められる。さらに1~3世紀にはサンガム文学のなかに3王国の抗争やチョーラの国王の事績が描かれ,なかでも,ナランギッリはベーダ祭式を多く行った王として,また2世紀末のカリカーラは全インドの支配者として有名である。 史実がより明らかになるのは9世紀以降である。…

※「サンガム文学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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