日本大百科全書(ニッポニカ) 「デッケル」の意味・わかりやすい解説
デッケル
でっける
Eduard Douwes Dekker
(1820―1887)
オランダの文学者。筆名ムルタテューリMultatuliで知られる。船長の子としてアムステルダムに生まれる。初め宣教師を志したが、のち商館に勤務し、1838年父の帆船でオランダ領東インド(インドネシア)に渡航した。ジャワ、スマトラ、スラウェシなどで東インド政庁職員として働き、52年アンボン島の副理事官、57年ジャワ島ルバック郡の副理事官に任ぜられた。彼は、植民地における強制栽培制度の過酷な搾取、現地住民の悲惨な生活、現地人理事官の不正に怒り、職を辞して帰国した。若くして詩や文学に傾倒し、ロマン主義やルソーの思想に影響され、正義にあこがれる彼は、帰国後、貧苦のうちに小説『マックス・ハーフェラール』をムルタテューリの筆名で発表し(1860)、ルバック郡住民の惨状を活写した。ことに1830年に開始された強制栽培制度の害悪を弾劾し、オランダ人の良心を覚醒(かくせい)させ、この非人道的な制度を廃止させるきっかけになった。晩年はドイツに住んで著作に従事した。
[栗原福也]